我、ダンジョンマスター。これより配信をはじめる。【 わりとポンコツなダンマスちゃんが、配信者となって視聴者にからかわれたりつっこまれたりしながら、ダンジョンを防衛する話 】
第2話 我、皆とつくばダンジョンを視聴する
第2話 我、皆とつくばダンジョンを視聴する
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画面が切り替わる。
コンクリート打ちのような灰色の地下道に入ってきたのは、大学生だろうか若い男性だった。
彼はなんとも気弱そうな様子で、体の前にスコップを両手でぎゅっと握りしめている。
《気弱そうな奴が入ってきたな》
《武器もスコップだし、やる気あんのか?》
《ばっか、スコップは万能武器だろ》
《フィクションの読み過ぎである》
《えー、でも戦争で一番人を殺した武器って言ってなかった?》
《一次大戦の塹壕戦ならな》
《穴も掘れるし糞尿も埋められる。便利だし軍隊は絶対持ってないといけないけど……》
《まあ、あくまで最後の武器だろうね。振り回すだけで使えるってのも利点だし》
《ただー、あの子のスコップ、結構ごついから武器としてもいけそうだよ~》
確かに男性の持つスコップは使用感はあるものの、その先は鋭く、また側面にも刃がついており十分武器として使っていけそうだ。
《お、某社のタクティカルミリタリースコップじゃん》
《し、知っているのか!?》
《うむ。基本的なスコップとしての使用はもちろんのこと、側面はアックス、穂先の角度を変えることで鍬、加えて穂先を取り替えることも可能となっている。キャンプやアウトドアはもちろんのこと、非常用に車に積載、そしてこのようなダンジョンでの使用にも耐えれる一品です》
《……でもお高いんでしょう?》
《はい、通常なら48800と少し割高になっております。ですが画面を見ている皆様の為に、今から3時間の間だけ1万円の値引きさせていただきます》
《となると、38800円と……》
《はい、ですがそれでもまだ高いと思われる皆様、今なら古いスコップの下取りでさらに5000円のお値引きをさせていただきます》
《つまり……、33800でこちらが購入できると》
《その通り! 但し現品限りとなっております。今も皆様からかなり電話がかかっている状況で、お電話つながりづらくなっております。インターネットでのご注文も可能ですので……》
《…………仲いいな君ら》
《知っているのか!? から通販番組の流れに切り替わってて草》
そんなコメント欄に、ワイプになって動画を見ていたモナも反応する。
「ほほう、なかなかに便利そうじゃの……。うちに古いスコップなんてあったかの?」
ごそごそとまわりを探りはじめた。
《おいおい、マヨマヨまで釣れちゃったじゃん、どーすんのこれ》
《モナー、嘘っこ通販だよー》
モナは慌てて居住まいを正し、ふんぞり返った。
「ふ、ふん。そんなことわかっておったわ。振りじゃ振り」
だがその顔はリンゴのように赤く染まっている。
《今更遅い》
《だがそれがいい》
《そして嘘通販とは言い切れない。俺はさっきの通販番組のノリ見てポチったぞ》
《マジか!?》
《実際便利そうだしな……。まあ、お高かったけど》
《せめて、この動画見終わってから買ってもよかったんじゃね?》
《それだと買えなくなる可能性高いからな》
《今見に行った俺、売り切れを確認し無事終了チーーン》
《はえーよホセ》
《おい待て、そんなことよりもう一人入ってきたぞ。動画見ろ》
地下道で心細げに立つ男性。そんな彼を押し出すようにして入ってきた小柄な人影。それはまなじりを上げたショートボブの女性だった。
片手には和弓、腰には矢の刺さった小箱を携帯している。
「ちょっと美夜、おさないでよ」
背中を押された男性が抗議の声を上げる。
だがそんな抗議も、後ろの女性――美夜の前に封殺された。
「タケルが入り口の前で突っ立ってるからでしょ。邪魔なんだから早く前に行ってよ」
「わ、わかったよ……」
男――タケルはおずおずと足を前に進める。
その背に美夜は声を飛ばす。
「もう、ちゃんと胸を張ってよ。そんなんじゃあモンスターが出てきたら怪我するわよ」
「わ、わかってるってば」
美夜の声におされながら、男はおっかなびっくりで通路を歩き始めた。
《ミヤちゃんって言うのか。かわいいけどなかなかに気が強そうだな》
《かわいいなー》
《学生カップルかー。つくばだし妥当か?》
《なじって欲しいな》
《武道系のサークルが最初だと思ってたんだけどな》
《カップル死すべし。慈悲はない》
《何か変なのが混じってないか?》
《気持ちはわかるが自重》
《わかる時点でその……》
通路をビクビクしながら歩く男を見て、モナは手をたたきはやし立てる。
「これじゃこれ。これぞ我の望むダンジョン探索じゃ。初っぱなから玄人っぽさは求めてないのじゃ」
《モナちゃん、ストレスたまってんの?》
《よほど自衛隊の一件がトラウマだったんだなぁ》
《モナモナに目を掛けられてるあの少年、うらやましす》
《そう思うならお前もダンジョン入ればよいよいょぃょぃ。もしかしたら目を掛けてもらえるかもしれぬれぬれぬ》
《(残響音含む)》
《と、総統もおっしゃられておる》
《ネタがふるぅい》
《もしやZZiは複数人存在するのか》
《深く突っ込むな、本名さらしの刑に処せられるぞ》
《おっちゃんこの流れ、懐かしすぎるわ~》
《なんなのこの流れ?》
《ゲーム帝国で調べると幸せになれるぞ》
《あ、そういやさ、本名さらしの刑で思いついたけど、この子たち本名さらされてない?》
《あ……》
《たしかに……》
《ミヤしゃんはハンドルネームの可能性も微レ存》
《おれ、あの抜けた少年にそんな機微が存在するとは思えんのだけど》
《まぁ……、そうね》
《なら本名&顔がさらされるのってマズくない? プライバシーの何たら的に》
《そこんところどうなんだろうね。マヨちゃんどうなの?》
「ん……?」
マヨがコメントに気づき顔を向ける。
「なんで我が日本の法律何ぞに縛られねばならんのじゃ?」
心底不思議そうにコメントに問いかけるモナ。
《お、おう》
《まあ確かにそうではあるが……》
コメントの方もその答えにいささか唖然とした様子だ。
それを見つつモナは、指をくるくると舞わし顎をあげる。
「まあ、とは言え我は寛容じゃからな。当然そこら辺の対策もしておるわ」
《ほほー》
《マヨちゃん有能》
《どんな対策?》
《あれじゃね、動画では名前が自動で置き換わってる》
《ああ、謎技術的なサムシングでか。ありそうだな》
《実は顔とかも代わってたりしてな》
《なんだとー》
《だまされた、ミヤちゃんになじってもらいたかったのに、だまされた》
《おどおど君を見て興奮してたのにだまされた》
《おまいらマジ自重》
《性癖暴露大会やめーや》
《で、結局どうなんよモナちゃん。どんな対策してんの?》
「そ、それは……」
とたん、モナの目が泳ぎはじめた。
《おい、なんだ?》
《怪しいな》
《どうしてそこでキョどる》
《ペロン。この味は……、嘘をついている味だぜ》
《これはいけませんねぇ》
「わ、我ちゃんとやったもん。ちゃんと政府? に頼んだから大丈夫じゃもん」
顔をまっ赤にし早口にまくし立てるモナ。
「まあ……、具体的に何をしたかまでは知らんのじゃが……」
一転、モナは指をいじいじし、口をとがらせた。
《ダメじゃん》
《The 丸投げ!》
《奥義:下請けに丸投げの術》
《見習わなくていいところを見習っている感》
《まあ、任せれるべき所は任せるのはあながち間違いじゃないけどな》
《一応マヨちゃんは管理運営が主業務だし、日本の機微には詳しくないだろうからな》
「じゃ、じゃろう?」
モナはうつむいていた顔をほころばせる。
《だけどまあ、自分の手柄みたいに言うのはなぁ》
《開き直りもいけませんなぁ》
《お仕置きが必要ですhshs》
《同意、だけどダメだお前ら、調子に乗りすぎてる》
《おい、母上はどうした。止めろよこいつらを》
《……》
《……》
《どうやら今日は貧乳母上はいないようだな》
《勝利!! 我々の勝利!!!》
《だめじゃん……》
《後で視聴して確認されたら同じ事だろうに……、なぜこいつらは強気でいられるのか……》
《だって!!》
《それは!!》
《アーカイブ視聴できないから!!》
《仲いいなお前ら》
《あ、でも確かに前の放送も生以外で見ることは出来なかったな》
《私、前の奴途中から録画してたけど、後で見ようとしたら謎スクランブルがかかってたね》
《やはり勝利!! 我々の勝利!!!》
《あ、俺も。画面のキャプチャもスクランブルかかってた。なんだ? あの技術》
「む、それも我の権能のひとつじゃな。動画は我のちゃんねるのみでしか見られんぞ。当然ダンジョン内での動画の撮影も無理じゃ」
ぼーっとコメント欄を読んでいたモナが思い出したかのように付け加える。
《だからそういうの早く言えって。後出し設定はやめろ》
《マヨはやはりポンコツ》
《ぽんこつかわいい》
《あ、でもということは……》
《ダンジョン動画配信のために急いで免許取ったチューバ―死亡のお知らせ》
《あ、そういやどっかの炎上系チューバーがイキって免許取ってる動画あげてたな》
《はい残念賞www》
《ざ、ま、あ》
《今必死で、できもしない動画編集してたりしてな》
《いったいどんだけ嫌われてるんだよ……》
《あ、でもマヨマヨ~、なんでそんな設定にしてるか教えてもらえる~》
「む、それはそのぉ」
コメント欄の質問に、モナは指をくねくねと恥ずかしがる。
《怒らないからおじさんに言ってみなさい》
《大丈夫だよ。うん大丈夫》
《ほん自重》
「わ、我のちゃんねる見てもらえなくなったらいやだったからじゃ」
モナは上目づかいにそう告白した。
《ズキューーーン》
《はい尊死》
《死亡確認!!》
《ま、まあ確かにそうかもしれないが……》
《意外とマヨマヨはしたたかだな~》
「あ、でもでも。あーかいぶ? じゃったか? 前の放送を見られるようにはするつもりじゃぞ。今準備中じゃ。楽しみに待て」
格好をつけてモナはぴしりと画面を指さした。
《お、それはいいな》
《楽しみ》
《おい、さっき貧乳母上がいないと思ってイキってた奴ら。息してる?》
《母上、後で絶対アーカイブ視聴するぞ》
《だ、誰でござるかぁ?》
《そ、そんな奴いたでござるかぁ?》
《そ、そんな奴見つけたら拙者がお仕置きするでござるぅ》
《特定がたやすすぎる》
《まあおとなしくなってくれるならいいか》
《でも準備中か、どれくらいかかるのかな。俺、初回を見逃してるから見てみたいんだよなぁ》
《それなりに時間かかるかもな。生放送じゃなくてアーカイブだとプライバシー的なサムシングが厳しくなるかもだし》
《あ、そうだ。そのプライバシーの云々。この動画で名前とか顔とか修整しなくて良い理由とかわかる人いる?》
《いるのか、そんな奴》
《ダンジョン入った奴なら知ってるだろ?》
《あー、入ってはないけど知ってはいる。試験受けた後規約にサインしたけど、そこに書いてたはずだ》
《そんなんあったっけ?》
《字、細かかったから読み飛ばしたわ》
《悪いことは言わん。サインする書類はちゃんと読め》
《ほんとな……》
《こういうの読み飛ばしてる奴、騙されて保証人になってしまう味ある》
《ちょっとわかる》
《保証人だからって言われて、実は連帯保証人だったりとかな》
《……ん? それって違うの》
《mjk!?》
《知っとけ、まじでやう゛ぁい》
《説明は……、教えて博雅エも~~ん》
《まっかせっとけ~い。ざっくり言うと連帯保証人は厳しい、チョー厳しー。借主が返済能力有っても、こいつめんどくせーって思ったら、貸主が連帯保証人に借金を請求できるくらい厳しい~よ~。他にも色々あるけどきびし~んだ~》
《え……それ怖いんだが》
《そう、怖い。だからサインの前にちゃんと読め。おじさんとの約束だ》
《おい、話がずれてるぞ》
《おっとそうだった。んでその規約には結局なんて書いてたの?》
《そういやそうだった。色々小難しく書いていたけど、ようはダンジョン内ではモナちゃんの動画で顔とかさらされることに対しての同意と、あとそれに付随して他人の個人情報をダンジョン内で吹聴すんなって事とかだな》
《う~~ん、妥当》
《面白みがない、さてはノマルンだな》
《なんでわかるんだよ!》
《本当にそうだったwww》
《まあでも、政府側だとそれ以外に対応のしようがないよな》
《まあねぇ》
《ただまあそれだと、探索者が外に出て煩わしい思いをしないかが心配だな》
《そこはそれ、モナに期待よ》
《せやな、気持ちよく皆が探索するのを変に邪魔する奴はギルティ。ペナの対象になるだろ》
《だよね、もなもなー》
「んあー。う、うむ。そんな感じじゃぞ」
気を抜いていたのか、ぽけっと口を半開きにしていたモナが慌てて口元を引き締め頷いた。
《生放送なのに気を抜きすぎなのである》
《今更遅い》
《よだれ垂れてるぞー》
「え! うそ!?」
急いで口元を拭うモナ。
《うっそぴょ~~~ん》
《可愛いなあ、おいw》
《VRでよだれはわからんだろうに》
《そこに気づかないのがいいんだろ》
「ぬ、ぬしら、また我を騙しおったな」
モナは顔をまっ赤にするがコメント欄はそれに取り合わない。
《騙される方が悪いんだよなぁ》
《実際よだれ垂らしてたかもしれんし》
《俺らから確認することは出来ない》
《シュレーディンガーのよだれ》
《そもそも生放送でしゃべりもせずボーッとするとかww》
《まあありえんよな》
「んなっ。そもそもぬしらが小難しいことを話しだしたんじゃろうが。我はその間動画に集中してただけじゃ。ほれ見よ」
モナが指さすのは扉を開けて部屋に入り込む二人の姿。そして物陰からその二人を狙う猪頭半人の化け物の姿だった。
「ぬしらが見とらんうちにあの二人、ずいぶんとピンチになってるようじゃぞ」
モナは悪い顔で笑う。
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