第5話 我、安曇野ダンジョンを配信する
復活しました。ありがとうございます。
この間にも☆♡も増えてまして、感謝です。
今週は今日を含めて、月火、木金と計四回更新の予定です。
理由としては、ストックと切りどころがちょうどいいといったところです。
よろしくお願いします。
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「さ、さて、次は信州安曇野じゃな。あ、その前に……」
モナは机の上の湯飲み、小皿を片付けはじめた。そうして――、
「ごちそうさまです。おいしかったのじゃ」
手を合わせた。
《うん、迷ノ宮ちゃん。よく出来ました》
そのコメントにモナは相好を崩す。
《順調にちょうきょ……、もといしつけをされてるな》
《とと様、母上、二人ともこれでいいのか?》
《オレはどうでもいいかな、めでれれば》
《だめだこいつ……》
《母上は今日はいないからなぁ》
《まあでも特に何も言わん気がする……》
《まあ確かに》
「さて」
モナはぱんと手をたたき注意を促す。
「ではこちらが安曇野にあるダンジョンじゃ」
画面が分割され映し出されたのは、土や岩をくりぬいたようなダンジョンだった。
《ゲームとかでよく見る系のダンジョンだね》
《自然窟……というわけでもないか。なんか掘ってる感じだし》
《The洞窟って感じだな》
《所々濡れたり水たまりがあったりするね。湿気多そう》
《これが安曇野のダンジョンか》
《安曇野……、長野か》
《中部地方は長野にダンジョンが出来たのね。つくばといい安曇野といい、微妙に中心地を外してきてるな》
《(地図上は)中心ぽいだろ》
《中部地方は絶対名古屋だと思ってたのに。遠い……》
《中部の中心ぶってるんじゃねぇぞ。名古屋民》
《ちょっと東海道が通ってるくらいでえらそうにしてるんじゃねぇ》
《…………ひがみにしか聞こえない件について……》
《北陸民からしたら妥当な場所だろう》
《北陸は北陸でダンジョンがあるだろ?》
《ないよ。つか八地方区分に北陸なんてねぇし》
《まあ地方区分の定義自体曖昧だけどね~》
《区分が曖昧と言えば新潟よね》
《新潟君はさぁ、中部なのか、関東甲信越なのか、北陸なのか、それとも東北なのか……。はっきりして欲しいんだわ》
《そこら辺どうよ、新潟県民》
《うちの知事は前に、特定の地域に限定されず、多様な枠組みを活用って言ってたぞ》
《い、い、と、こ、取、り、発言》
《首長自ら言うとかwww》
《潔し!》
《ある意味うらやましいわ》
皆が雑談に興じる中、画面に変化があった。安曇野のダンジョンに入ってきた者がいたのだ。
懐中電灯の明かりがゆらゆら揺れる。その奥に見えるのは男だった。
だがその格好は、長袖にジーンズ、そして背負い鞄といささかラフな格好で、これと言った武器も持っていないように見えた。
《ラフすぎんだろ》
《武器なしかよ》
《格闘家……?》
《さーすがにひょろすぎんだろう》
《身軽というと聞こえはいいけど》
《ダンジョンを舐めてる感がすごい》
《これ、すぐ死ぬでしょ》
《撮れ高的にどうなん? モナ》
「撮れ高……? ああ、面白いかどうかか」
モナはふぅむと首をかしげる。
「面白い、と断言したいところじゃがな。正直なところわからぬ。ランダムに選んだだけじゃからな。とは言え我が権能を持って選んだし、少ないとは言えこの安曇野のダンジョンにも今日だけで延べ数十人入っておる。その中から選ばれたんじゃから見所はあると思うがの……」
《そういや初日も、みんなで楽しむために事前に見てないって言ってたか……》
《あ、そうなんだ》
《モナ、えらい》
《マヨマヨ可愛い~》
「そ、そうか? えへへ」
モナは相好を崩した。
《う~ん、ちょろい》
《にしてもあれだな。モナの権能、見事に動画配信に偏ってるのな》
《まあね》
《今更だけどねぇ》
《い、一応ダンジョンの設定を変えれたりもするから》
《それ、ダンマスとしてデフォで持ってなきゃいけない奴やろ》
《まあ、創作ではダンジョン造らないダンジョンマスターもいますですしおすし》
《それはダンジョンマスターなのか?》
《ダンジョンを造らないダンジョンマスターとは……》
《ダンジョンマスターの概念が崩れるな》
《そういう変化球もやっぱ面白いし》
《まあ、そのおかげで俺たちもマヨも楽しめる。いいことずくめだから、ヨシッ》
《おっと、雑談してる間に敵が出てきたぞ》
《マジで?》
《おっと、どんな敵かな》
《あ、これやべー奴やん》
男は一人、物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回しながら、ダンジョンを進んでいた。途中、壁を削りそれを採取していたりもする。
そうして洞窟を進んでいると――、
――ぐじゅり。水たまりに足を踏み入れた。
男は不快気にそれを見るも、足を進めようとした。ところが泥で滑ったのか、水たまりに足を取られてしまう。
「おおっと」
壁に手をつきバランスを取ろうとする。だが、不自然に水たまりが波立ち、彼の足を取って引き倒した。
尻餅をつく男に水たまりがまとわりつく。そしてそれはじゅうじゅう音を立てて、彼のズボン、靴が、そしてその足が泡を出し反応しながら溶けだしていた……。
普通なら慌てふためく状況、だがそれを見る男は冷静だった。
「ははあ、なるほど……。これが入る前に言われた奴ですか。アメーバ状の原生生物になるのかな? 溶け方を見ると酸性っぽいなぁ。となると異世界とやらも地球と同じくミトコンドリアを取り込んでいる?……。大気成分も近い……? いや、それは早計に過ぎるか……。ひとまずはこれをなんとかしないと。さすがに痛いしなぁ」
そう言って、平然と自身のリュックをあさりはじめる。足下はそのままに……。
《冷静すぎる……》
《こえーよ》
《美夜ちゃんとは別の意味で怖い》
《服だけじゃないよな! 足も溶けてるよな!》
《『さすがに痛いしなぁ』じゃねーよ。もっと焦れよ。見てるこっちがいてーよ》
《これってスライムなの?》
《かもなー》
《なんなの? こいつ。もしかしてもうクラス持ってて、痛覚に耐性あったりするの?》
そのコメントに対し、モナはふるふると首を振る。
「そ、そんなことないぞ。あやつは今回が初侵入じゃ。まだクラスにはついておらん。……なんなの、あれ? 我、怖いんじゃが。日本人、変な奴ばっかりなんじゃが」
《誤解がすぎる》
《あれは異常》
《特殊すぎ》
《美夜ちゃんといい、こいつといい、なんで変な奴ばっかり》
《むしろモナが変なのばっかりピックアップしすぎなんだが》
《ある意味撮れ高はあるだろうけどさぁ》
そうこうしているうちに事態は進む。
男がリュックの中から取りだしたのは白い粉状の物質。俗に言う塩だった。
男はビニールに入れられたキロはあるだろうそれを、盛大にスライムに対してぶちまけた。
「見た感じ、おおよそ水分で出来てるみたいですし、これでなんとかなりますかね?」
その言葉通りか、塩をかけられたスライムは嫌がるようにして体を縮め、徐々に動きを止め、小さく固まっていく。
「ふむ、内部のモンスターを外に持ち出すことは出来ない、とのことでしたが……。この様子だと、この場でならある程度調査が出来そうですね。とは言ったものの足の怪我のこともありますし、手早く進めないと」
男は手袋越しに小さく動かなくなったスライムを手に取った。
《うーん、サイコの気があるな》
《スライムには塩、はっきりわかんだね》
《もっと自分の足を気にしろ》
《溶けてる分、血はあんまり出てないみたいだけどヤバいだろ》
《ズボンもあるし、カメラがそこをあんまり映してないからよくわからんが、結構グロいことになってそうだな》
《なのに顔色変わらないアイツ、頭おかしい》
《むしろ嬉々としてるもんな》
《マッドすぎるわ》
「ふぅむ。さすがにこの大きさで単細胞生物や細胞群体であることはないでしょうが……。いやしかし……」
男は顔のそばまで持ってきたスライムをためつすがめつしている。
「…………よし、切ってみますか」
見ているだけではらちがあかないと思ったのか、男はあらためてリュックを探る。そうして目を離したその時だった。
――――!
手に持っていたスライムが突如として牙をむいた。
先程まで小さく固まっていたというのに、瞬時にして広がり男の手を覆い尽くし、顔に向けて飛びかかってきたのだ。
「――なっ!?」
男も気づきスライムを振り払おうとする。が、スライムはその手すらも巻き込んだ。
「……これは、マズいですかね。まさか擬死状態になっているとは……」
男はチラリと地面に目を向ける。そこにはほとんどの塩が粉状のまま散乱していた。
「ああ……、塩が液化してないじゃないですか。これじゃあ効果が無い。いや、むしろ外の水分と一緒に小さく硬化した? いやはや興味深いですが、もはやこれまでのようですね。……ううむ、次回の私に期待です」
そう言って男は目を閉じ、スライムに頭から捕食された。
《グッッッロ……》
《すみません、少し離席します……》
《いてらん、心を落ち着けてこい》
《油断してた、フィルターかけとくべきだった》
《血とかはいいんだけど、頭から捕食はちょっと生々しすぎて、ね》
《いくら途中で画像が切れたとはいえ、ちょっとな》
《オレはアイツの精神性の方がグロかったわ》
《自分を客観視というか……。端的に言うと頭オカシイ》
《同意》
《禿同》
《何が『次回の私に期待です』だよ。俺たちにクローンはないんだぞ》
《大丈夫、あれは一機目。まだ代わりはいるもの》
《くっ、そういやそうだった》
《ちくしょう、せかいはどうなっちまったんだ》
《――その情報はあなたのセキュリティクリアランスには開示されていません――》
《それ、ダンジョンができた今の世の中、洒落にならんのだよなぁ》
《ここ、TRPG民も多いのな》
《TRPGとダンジョンのシナジー率高いしね》
《それはそうと、モナちゃんどうした?》
そのコメントももっともである。モナは画面から目をそらし、顔を青くしていたからだ。
「ううう。ぐちょぐちょでどろっとして気持ち悪かったのじゃ」
《言葉にしないでよモナモナ。気持ち悪くなるじゃん》
《モナ、グロ耐性無かったのか……》
《初日あれだけイキってたのに》
《やっぱりぽんこつぅ》
《ダンジョンマスターなのに……》
《いうてアレ、相当グロかったぞ。仕方あんめ?》
《あ、俺、フィルター掛けてるから大丈夫》
《俺も俺も》
《悪いこと言わないからモナもフィルターかけよ、な?》
その言葉にはモナは首を横に振って応えた。
「うう。ありがたい提案じゃが、我の画面はそのような設定はできんのじゃ。次からはできるだけ見んようにする」
目をぎゅっとつむる仕草のモナ。
《お目々ギュッのモナ可愛い》
《スクショ案件》
《ちくしょう、撮っても後でスクランブルかかるんだよなぁ》
《残念》
《可愛い》
《かわいい》
《(結婚しよ)》
《ライナー自重して》
《いやしかし、これ知ったら、貧乳母上憤死するんじゃね》
《見逃したって、血涙流しそう》
《七孔噴血しても不思議じゃない》
《すぐ復活してきそうだけどな》
《ゾンビのように起き上がって、モナを褒め称えそう》
《ホント、母上、今日はいないと思って言いたい放題だよな》
《それが!!》
《俺たち!!》
《キラーーーン》
《無駄に息が合っててうぜぇな、こいつらww》
画面は途中で途切れたとは言えなかなかにショッキングな映像だったのだ。
それを忘れるかのように、しばし雑談は続いた。
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