第19話 我、食い意地張ってない!

「あんた、さっきの子? ざまにかわいうなったねぇ」

「きしし」


 フェアリーは、少女の問いを肯定するように、はちみつ色の燐光を散らしながら舞う。先程までと違い、その笑い声は柔らかい。


「でも、いくらかわいうなっても、私容赦せんけんね。次に会ったら敵同士やけん。ほら、もういき」

「きし? きしし」


 少女は再度手を払って追い払おうとするも、フェアリーはそれを無視するように、少女の肩口でくるくる踊り始める。


「もう、なんなん」

「きしし。きしっきしっ」

「え!? 確認ってなによ。え? うそぉ」

「きししっきししっ」


 驚く少女が面白かったのか、しきりに、きしきし笑いながらフェアリーは少女の頭の上を舞う。


「えと、なんか【フェアリーサモナー・ミエル】ってなっちゅうけど……。これ、あんたのせい? もしかしてついてくる気? でもあんた、外に出れんがやろ?」

「きししし」


 少女の言葉に笑って応えると、フェアリーは少女の手に飛び込むようにして消える。その手の甲に残ったのは、はちみつ色の片羽のアザ。

 一時の後、そのアザからふわりとフェアリーが浮かび上がる。


「えええ……、それじゃあ、ここにくっついて、ずっとついてくる気?」

「きしっ」


 フェアリーはそうだと言わんばかりに、その小さな身体を張る。


「なるほど……、ダンジョンの探索を手伝ってくれるってことやね」

「きしっきしっ」


 小さく何度も首を縦に振るフェアリー。だがその視線はチラチラと琥珀の液体に注がれている。


「もう……、食い意地がはっちゅうねぇ。えいよ、次もなんか持ってくるけんね……」

「きししししし」


 フェアリーはくるくると宙を舞って喜びを表現した。


「ほしたら今後ともよろしくね」


 そっと少女が差し出した指先を、フェアリーは両手で握りしめ「きしし」と笑った。



《フェアリーちゃんいたぁぁぁぁ》

《こういうの待ってたんだよー》

《はい尊死》

《尊すぎて無事死亡》

《キーワードは餌付けだな》

《ワタシハ ヨウセイ フェアリー コンゴトモ ヨロシク》

《今から高速乗ったら朝には着くか。仮眠をとってデパートの某養蜂場ではちみつを買ってと……。いけるな》

《ちくしょう、岡山は遠いな。日帰りは無理だし。……せめて昨日のうちにわかっていれば》

《なぜ俺はダンジョン資格を取ってない!》

《論外じゃん》

《抽選外れたんだから仕方ないだろ》

《どっか他のダンジョンで、かわいい、もしくはかわいく変化そうなモンスターがいる場所は?》

《今のところ、骨にゴブリンに……。くっ、圧倒的かわいさ不足》

《ゴブリンならワンチャン。最近は可愛くなるゴブリンも流行だし》

《ゴブリン、腰蓑だけだったしアレは雄だろ》

《あ、でも、もふもふならいただろ!》

《そういや北海道のダンジョンはもふもふも出たって話だったな》

《もふもふ天国もありか》

《動物アレルギーでもモンスターは大丈夫。そう信じて、私は北海道へ飛ぶ。朝一の飛行機は抑えた》

《北海道のダンジョンはもふもふだけじゃない、虫も出るぞ》

《そこは、、、がまん》



 おのれたちの臨むフェアリーの姿。それに喝采を上げ、盛り上がるコメント欄。

 だがそれを、申し訳なさそうなモナの声が遮る。


「盛り上がってるところ、すまんのじゃがのぉ。……フェアリーにはちみつあげても、同じようにサモナーになれるとは限らんぞ。むしろ無視して襲ってこられて死ぬのがオチじゃないかの」



《な、なんだってーー》

《そんな、僕のフェアリーちゃんが……》

《モナ、蜂蜜とられたからって、そういう事するのはいけないと思います!》

《汚い、さすがモナ、汚い》

《迷ちゃんは汚くない、可愛い!》

《母上ステイ》

《母ステ》

《――はい》

《迷ノ宮ちゃんの母上であるならば、もう少し慎みを……》

《はい、すみません》

《モナちゃん、食い意地張ってるからなぁ。妖精ちゃんにとられて悔しかったんだろ?》

《せやろな。怒らないから正直に言ってみ?》



「違うわ!」


 モナは声を荒げる。


「そなたらは、いっつもいっつも我のことを食い意地が張ってると言いおって……。我、そんなに食いしん坊じゃないし。のう、ウスベニ?」


 モナの言葉にウスベニは、お答えできませんとばかりに、ぐにゅりと身体を折り曲げてしまった……。


「な!? そなたまで……」


 嘘じゃろう……と、モナはがっくり肩を落とした。が、数瞬の後、首を横に激しく振る。


「違うし! 我、人よりちょっとおいしい物が好きなだけだし。我、知っておるぞ。世の女子はおしなべて甘い物が好きじゃと。ならば我も、甘くておいしい物が好きで何が悪かろうか、いや悪くない」


 モナは顔を上げ拳を握って、「それに」と続ける。


「はちみつの子は、あくまで初回じゃからうまく行っただけで、今後同じようなことをしても確率が下がるのは当たり前じゃろうが。しかもはちみつの子は配信されたのじゃから、なおさらじゃ」



《いいわけ乙》

《世の女子が食いしん坊だからと言って、モナが食いしん坊である事実は変わらない》

《むしろやっと認めたな》

《反語まで使って認めたからな》

《なるほど、はちみつの子が【フェアリーサモナー】になれたのは初回特典みたいな物か》

《クラス名にも冠ついてるし、ユニーク感があるからねぇ》

《ハクスラ系のゲームのドロップで、一回目だけはレア確定みたいな?》

《フェアリーちゃんが、モナみたいにチョロチョロなのは初回だけ、と言う訳か》

《それ以降は確率激落ちか。まあ可能性はあるし何人かで協力すれば……》

《はちみーはフェアリーサモナーだけど、他を狙うならまだ初回特典残されてるかもね》

《もふもふサモナーはもらった》

《フェアリーだけじゃなく、色々召喚できるようになるクラスもあるのかねぇ》

《それこそ悪魔召喚士みたいなやつ?》

《そうそう、それこそさっきの男はスカってたけど、何か方法あるかも》

《…………おれ、すっごいことに気づいたんだけど……》

《なんだなんだ?》

《おしえておしえて》

《はちみーの子、フェアリーを倒してない》

《そりゃまあ、仲魔にしたんだから倒してはないだろうが……》

《そうか、わかったぞ。モナは俺たちに倒し方を教えてあげると言っていた。なのにフェアリーは倒されていない》

《嘘つきー。モナモナの嘘つきー》

《これは謝罪と賠償が必要ですなぁ》



「嘘つきじゃないわい。あのフェアリーは倒されておるもん。我の管轄外になっておるから、倒されてる扱いじゃもん」


 モナは反論するが抗議の声は止まない。



《モナ、倒し方教えてくれるって言ったのに、教えてくれてないじゃーん》

《ソウダソウダー》

《せめてそれは教えてくれないと、約束だろう?》



「いやじゃ。いやじゃいやじゃ」


 モナは頑と首を横に振る。


「我、そもそもフェアリーを倒したパーティを配信すると言ってただけで、倒し方を教えるとは言ってないし。それにサモナークラスへの糸口がわかったのじゃから、言わばトントンじゃろうが」


 バンバンと両の手でモナは机をたたいた。



《台パンww》

《台パンやめーや。びっくりするでしょ》

《だがまあモナちゃんのいう事も一理はある》

《だが百理はない》

《まあでも、フェアリーの攻略法は何となくわかったから次行ってもいいんじゃない?》

《出たな。自称識者》

《でも、前回は当たらずとも遠からずだったんだよなぁ》

《サモナー確定じゃないなら、岡山まで行かないし……。それなら次のダンジョン見たいな》

《次に票数多かったのは、東北のダンジョンだったか?》

《ああ、あそこも気にはなってるんだよねぇ》

《入ったやつは妖怪ダンジョンって言ってたっけ》

《ダンジョンの中も、映えるらしいぞ。写真撮っても外に持ち出せないけど》

《そういや写真ってさ、ポラで撮ったらどうなるんだろうな》

《ポラって何?》

《ZZiじゃないとわからんよなぁ。今で言うチェキみたいなの》

《ああ、なるほど。デジタルじゃなくアナログで保存って事か》

《そこら辺どうなんだろうな》



「ふん。そのような物、持ち出したら真っ白けのけーじゃ」


 モナは、べーとばかりに舌を出した。


「後、残りのダンジョンは票数の少ない順にする。四国、北海道の順じゃな。恨むならかんにんぐをしたおのれを恨めよ」



《ひどいっ》

《でも可愛い》

《モナ様仏様、後生だから》

《ウスベニちゃんからも言ってあげて。そんな無体なことをするもんじゃないと》



「ええい! 知らん知らん。ウスベニにすがっても無駄じゃ!」


 モナはウスベニを抱きかかえ、すげなくそう言うと、画面を切り替えた。


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明日はおやすみして、更新は5日の木曜日にします。


今更ながらツイッターをはじめました。更新情報等はそちらでもいたしますので、気が向いたらよろしくお願いします。

https://twitter.com/KasugaKato

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