第12話 我、我も同情するぞ……
「そもそも、さっきのゴースト? って、所謂みんなの想像する幽霊とはちょっと違う感じがするんだよねー」
戦闘後の後始末を終え、ぐっと伸びをしながらサクがつぶやく。
「だってアレ、お清めの塩で追い払ったり、それならまだしも、 南無大師遍照金剛の真言で退散したり、果ては南無阿弥陀仏と唱えたら消え去ったっていうんだよー。もう無茶苦茶じゃん」
「なるほど、アレが幽霊だとすれば、我々なら汚れを祓い魂を鎮めればいい。だけどお寺さんだと幽霊への対し方が難しい。だけど咲の言ったような形で退散させていた。……ふうむ、餓鬼払いという形ならいいのかな? ああ、ちなみに追い払った方々は仏門の方かい?」
チルの言葉に、サクは思い出すように顎に指を当てる。
「うーん。確か檀家さんではあったけど、得度はしてなかったはず……、かな」
「なるほど……。ということはアレを退散させるには、なにも悪魔払いをする必要は無い、それっぽい何かをすれば払えるという事だろうか。……だとすれば、家から奉納薙刀を持ってくれば、私でもアレも簡単に斬り払えてたかもしれないな」
「そうかもしれないけどー。駄目だよ千留姉ぇ、勝手に持ち出したら、またおじいちゃんに折檻されちゃうよ」
「はは。そうだな、やめておくよ。この年であんな目に遭ったら恥ずかしいどころの騒ぎじゃない」
チルはどこかかわいた笑いで遠くを見つめ……、
「しかし、そうか……。だから咲はそんな格好でついて来たのだな。それなりの形であのゴーストを倒すために」
そう、言葉を加えた。
「んふふ。そういうことー」
先を歩いていたサクは、くるりと回ってチルの方を向き笑顔を見せる。
「だけどそれだけじゃなくってね。ゴーストをやっつけた人たちはクラスが僧侶ーとかになってたんだって」
「ふむ……、この場合の僧侶とは現実の方ではなくゲームでいう僧侶という事かな?」
「だーいせーいかーい」
サクは両手を大きく広げた。
「ゲームの僧侶、いわゆるヒーラーだよ。うーん、たぶんだけどー……」
小首をかしげサクは付け加える。
「このゴーストってヒーラークラスを取れるように配置されてるんじゃないかなぁ。それっぽい行動でアレを追い払えたらヒーラークラスになれる、みたいな?」
「ま――、いや、ダンジョンマスターの温情といったところか」
「そうだねー、ゲームとかだとヒーラーは必須だしね。意識して取得できるようにしてるんじゃないかなぁ」
「ははあ……。であれば咲もヒーラーのクラスを手に入れることが出来たのかな? さしずめ目当ては巫女といったところか」
「ぴんぽーん、その通り。狙いは、大体のゲームで変わり種のヒーラー職になる巫女なのでした。まあ、これならある意味本職だし、家で色々用意できるだろうしね」
「そうだな……。母さん以外みんな咲にあまいからなぁ。いろいろと用立ててくれるだろ」
チルは小さく手をたたくサクを見つめ、苦笑する。
「それで、実際はどんなクラスについたんだい? 敵を倒したんだからもうクラスを取得できたんだろう?」
「細かくいうと敵と会ってダンジョンの外に出た時点で確定するみたいなんだけどねー。今でも確認できるのかな? ちょっとまってね」
《新情報、多過ぎくない?》
《情報過多、情報過多でござる》
《あーね、モナの言ってたボーナスモンスターってそういうことか》
《ゴースト倒したらヒーラー確定?》
《確定って事は無いんじゃないかな。無理くり物理で倒してヒーラー職って事は無いだろうし》
《神罰の地上代行者 (物理)とかになりそう》
《それはそれで、ゴースト滅ぼせるじゃん》
《うーん。これって、与謝ダンジョンに行かないとヒーラーになれないって事? それだと厳しいと思うんだけど》
《いや、そうじゃないだろ。あくまでなりやすい条件のダンジョンがあるだけって事だと思うぞ》
《三等兵つながりで、衛生兵みたいなクラスもあるかもだし。それなら別のダンジョンでもいけそうだろ?》
《僧兵のコスでダンジョン入ったら、クラス:僧兵とか得られるかも》
《だよな、なりきりでもいいかもしれない》
《クラス:レイヤーになったりして》
《それはそれでありだろ》
《マヨマヨ、こんな感じで正解?》
「ぐぬぬ。正解じゃ」
そう告げるモナだったが、悔しさを一切隠していない。その証拠に口が富士山になっている。
「それにしてもこんなに早く正解にたどり着く者がおるとは。やはりもう少しダンジョンの難易度を上げるべきか……」
《はい、ストーーップ》
《やめろください》
《妹ちゃんが特別なだけだからね》
《そもそもこの情報、広まる前提だろ? そこで対抗してどうするんだよ》
《モナはん、それはゆるしまへんでぇ》
《唐突にキャラを作ってきた奴がいるんだが》
《いやほら、キャラ付けできたら二つ名もらえないかなと。そうすればダンジョンのクラスでユニークもらえるかもしれないし》
《その発想はなかったな》
《ある意味ダンジョンとこのチャンネルはつながってるわけだし、可能性はあるか?》
《だとしても無理なキャラ付けはやめておけ、しんどいぞ》
《同意。先達の忠告というか……、自戒を込めた言葉だな》
《なんだよ、急に優しいじゃないか》
《自分の轍を踏んで欲しくないんだよなぁ。見てて単純に痛いというのもあるが》
《このチャンネル、多分アカウントを変えるみたいなことは出来ないと思うんだよ》
《モナの不思議パワーで一元管理されてそう》
《うん、つまり変なキャラ付けしたらそれを押し通さなきゃならなくなる。もしくは黒歴史として残ってしまう》
《それは……、さすがに嫌だな。やめておこっと》
《逆に二つ名つけられたら、どんな者でも逃げられないという事だけどな》
《だな、ノマルンとか》
《かわいそう》
《ノーマルが蔑称という風潮、やめて差し上げろ》
《そうだぞ! やめろよ!》
《ハイハイ》
《で、結局妹ちゃんは巫女さんなのかね》
《まあ、そうだよ》
《……あれ?》
《……これって?》
《俺は妹ちゃんのクラスが巫女さんかどうか聞いたんだが……、この答えって多分リアルの方だよな》
《若旦那、やってしまいましたなぁ》
《しまったぁ》
「ご愁傷様じゃな」
モナのその目には同情が浮かぶ。
《マヨにまで厭きれられてるの、端的に言って面白い》
《で、結局クラスなんなの?》
《まてまて、妹ちゃん自ら教えてくれるみたいだぞ》
「そんな難しい顔をして……、どうしたんだい、咲」
分割された画面の中には、困り顔の妹に問いかける姉の姿があった。
「うーん、アタシのクラスがね、『
「ああ、うちは巫女だものな。松尾さんともそれほど関わりはないしね」
「そうなんだよねー。なんか特別感はあっていいんだけど、わざわざ巫女じゃなくて斎子になった理由がよくわかんないなーって」
あごに指を当て首をひねる。
《博雅のアネキ、斎子ってなんぞ》
《お姉ちゃんがちらっと言ってるけど、松尾大社の巫女さんのこと~。なれるお家は決まってたり条件はあるんだけど、ざっくり神社ごとの巫女さんの呼び方って認識でいいんじゃないかな~。他にも神社によっていろんな呼び方があるよ~。厳密には違うかもだから詳しくは調べてね~》
《ほほー、相変わらず勉強になる》
《履修してるのは雑学だけどな》
《雑学というよりは……、ある種高校生とかで罹患する何かに近い気がする》
《わかる。英語ドイツ語じゃなくて、和風にこじらせる何かだよね》
《どちらかというと真言系かなぁ、こじらせるのは》
《ん~。斎子が何かはわかったけど、でもじゃあなんで、妹ちゃんが言ってるように巫女じゃなくてそっちになったんだろうな》
《やっぱユニーク感かね》
《まあ特別感はあるよな》
「千留姉ぇ、理由わかる?」
ひとしきり考えても答えが出なかったのか、サクは顔を上げチルに問うた。
「うーん、もしかしたらって程度だけど、思いつきはあるよ」
「えー、なになにー」
答えを急くサクを困ったように見つめ、チルは口を開いた。
「斎子ってそもそもは童女がなるものだからな……」
一拍の沈黙。後、サクが不満をあらわにし両手を振り下ろす。
「んもー、なにそれ! もしかしてアタシが子供ってこと!?」
「はは、違う違う」
チルはそれを笑って受け流す。
「咲が可愛いからってことだよ」
ポンと軽くサクの頭をなで、チルはダンジョンの出口へと歩を進める。
「んふ~」
下げていた拳を顔に当て、頬を緩めようとしたサクだったが、思い直したかのように首を横に振る。
「って、そんな言葉で誤魔化されないんだからね。待ってよ千留姉ぇ」
「ははは、それは困った。可愛いのは本当のことなのになぁ」
「だから誤魔化されないんだって!」
先を行くチルの背を小走りに追いかけるサク。その声は弾んでいた。
《まさかの見た目で決まってた説》
《いうて妹ちゃんって子供か?》
《おっきいですよねぇ(一部分を凝視しながら)》
《揺れてますよねぇ(一部分を凝視しながら)》
《お姉ちゃんの方が子供なんだよなぁ(一部分を凝視しながら)》
《圧倒的格差がありますよねぇ(一部分を以下略)》
《モナモナと同等かそれ以下だからなぁ(一部…略)》
《まあ姉貴の方は、タッパもあるし胴着も着てるし、おまけに姿勢もいいしで、まず格好いいって言葉が先に出るんだけどな》
《スレンダー格好いい》
《でもなぁ、見た目でクラスが派生するとなると、ガワだけ違って中身は一緒って事もありそうだな》
《あー、確かに》
《たとえ違いがあっても誤差程度だったりな》
《ゲームで言う、アバターの性別で職業名が変わるけど実際は一緒ってやつか》
《そそ》
《たとえそうであっても妹ちゃんのクラスは、冠ついてるから、なんか特別な何かありそうだけどな》
《本職っぽいし、何かあってもおかしくないよね》
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