第3話 風間さんと最終試験【2】

 翌日の風間さんの朝は少しいつもより気合が入っていただった。

 髪を整え、脳内のナノマシンを整列させる。いつも使用している眼鏡……型のウェラブル端末……で状態が最良を確保しているのを確認。これならば多少派手に感情を崩しても部活の時間までは良好な状態を維持できるだろうと確認した風間さんはまだ準備中の母親より先に行ってきますと言い残して飛び出す様に外に出た。

 まだ新しい戦後型の団地の半ばぐらいの高さだ。今日は空が高い、そんな気がした。うっすらと高いところに雲がかかっている。エレベーターを飛び出した。

 風間さんが今日は気合を入れているのは言うまでもなく今日、一週間の成果を試す「最終試験」があるからだ。

「まあ、難しいことは言わないわ。今まで教えた事、それをしっかりとそれでクリアできるわよ。」

 そう芽衣子が言う最終試験。で、勝ち負けの結果の意味はと聞くと、「勝ったらカッコいいコールサイン、負けたら、ダサダサのコールサイン。を付ける。」

 変な名前になったら嫌だなあと風間さんは思った。チームプレイで呼ばれるのだ。やっぱり、自分でも気に入れる名前の方がいい。だから今日の風間さんは気合が入っている。

 なお、その話に「それだけか。」と安心したという態度を取る滝にそれを見て思いついたのか、それとも当初から言うつもりだったのか、芽衣子はじゃあ罰ゲーム追加ね。と言って罰ゲームを言い渡す。滝が落ちたらサナダムシVRの刑!それを言う目は笑っていたし、芽衣子も、真道寺も不謹慎なサムシングを見る時の笑いをしていた。

 それを聞いた風間さんは「ひえっ」と震えあがった。何事かと事情に疎い滝の前で芽衣子は解説する。小腸の中に寄生するサナダムシになるゲームよ。と。呆気にとられている滝に風間さんの口から説明がある。ゲーム性は栄養ポイントを貯めて体の長さを伸ばすだけ。数年前に、「無を理解できる。」「虚無を味わえる」ということでネタとして一定数利用されているらしい。と言われて何かを思い出したのか、ようやく事態を飲み込んだ滝は狼狽するももう遅い。こうして、滝の追加の罰ゲームが決定した。


風間さんが飛行部の部室棟に何時もより少しだけ緊張した足取りでたどり着くともう既に先輩たちは準備を終えてるらしく、少し余裕を持った態度で風間さんを迎えた。「検品オッケーだよ」という七瀬の声が明るい。何と尋ねると今日の最終試験のミッションを飛んでみたが異常はなかった。という話だ。念には念を入れたらしい。そのままゲームの中に入ると出たのは撃ちっぱなしのコンクリートの部屋だった。

「じゃあ、最終試験の話をするわ。」芽衣子の説明が始まった。

「今回の任務はこの先にある油田の防衛よ。設定では敵のテロ組織がUAVを放ち攻撃を企てている。これを全機撃墜して攻撃を阻止してほしい。という話。」

「ゆ、UAVですか!」風間さんは驚いてあたあたと落ち着きを失った表情で回りを見渡した。

「どうしたの?なんか苦い思い出でもある?」

七瀬が聞くと風間さんは前やった海峡戦争のFPSの対戦でUAVが猛威を振るったのだという。型番を聞くと初期の汎用航空UAV「暗剣」のものだった。

「ああ。安心して、そんな高級なやつじゃあなくてもっと古いのだから。」

相違って七瀬は安心させる。そっからさらに20年ぐらい前、MQ-9 リーパーとか、知らない?と聞く。知らないと答える風間さんに機体外観を見せるとどこかでみたような気がする、ぐらいの覚えがあった。

「真後ろでボーッとしていなければ大丈夫だから。積んでいる武装も携帯対空ミサイルのスティンガーぐらいだし。」

 楽勝ですね、と安心する滝。風間さんもそれ以上は質問がなく、機体の乗る準備を芽衣子に促されると滝を連れてその場から消えた。

「本当に変なことはしないでね!」

 続いて試験自体が公正に行われているかを確認、そしていざという時には試験に介入するために同行する七瀬と心配しすぎだよとたしなめる真道寺が続いて消える。そして、周りに誰も居なくなった芽衣子はCIC室に移動するなり、硬いシートに座り机一杯に広がった画面を見ていた。それはミッションの編集用画面だった。

 そこに映し出されたイベント編集ページと、空中に浮いた画面に映し出される予定の空域にスポーンした四人を見て、静かにこう言った。

「見つからなくて、良かった。」

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