第4話 風間さんとお砂糖の菩薩様【3】
「ええと、何だろう?キレのある戦闘が出来なかったからかな?」
どうせ違うだろうと思って風間さんが答えたされに、違いまーす。と指でバッテンを作ってイルゼは不正解を宣告する。
「正解は、一人で突出して、孤立した。からです。」
当たり前でしょ……と風間さんは思ったが、そういえば、確かに戦闘機での孤立した、とはどういう状況なのだろうと言われれば上手く回答することが出来ない。それなので、風間さんは黙って話を聞くことにした。
「この時代の戦闘機は正面にしかミサイルを撃てません。今のように後ろに打ち込める様になっても、結局それは射程を犠牲にする方法なので正面攻撃を代替出来るものでもないんです。」
その解説のために……おそらくは、ずっと昔から準備されていたであろう……立体映像を手元に表示する。色で敵味方識別された機体がその画面の中で絡み合っている。青が一機、赤が二機だ。
「つまりは?」
「そのまま攻め続けたら、あっという間に相手の懐に飛び込んでゲームオーバー。」
ミサイルを目標を変えて撃ち続けてきた青色の戦闘機は赤色の機体に四方八方から攻撃を受け、撃墜される。
「じゃあ、引けばいいの?」
「そうですね。でも、その隙に敵も追撃をかけてきます。これは、どうすればいいでしょう?」
思いつかない。急旋回か?あるいは芸術的な機動で相手から消えるとか?風間さんはいろいろなアイディアを思い浮かべて消していく。
「正解は、味方に助けてもらう。です。」
「えーひどい!それ、答えになってないじゃん!」
いえ、これが正解です。と笑って答えるイルゼ。だが、その目は真剣だ。
「そもそも、戦闘機は一人で戦うものではありません。必ず2機編隊で飛行し、協力し合って戦う。これが基本です。」
立体映像は2機編隊同士が接近する映像に切り替わった。縦に編隊が組まれ、前方の機体がミサイルを発射する。
「よく見ていてくださいね。」
互いにミサイルを撃った機体がそのまま逆さまになって操縦桿を引き、反転する。高度を落として稼いだ速度で。それに呼応するようにもう一機の戦闘機が敵に向かい、また正対する。グラインダー、またはチェーンソー機動と言われる機動だ。
「こうやって2機で互いをカバーし合って踏み込み合う、こうやって敵の有効射程ギリギリプラス向きを変える距離で撃って敵を寄せ付けず、こうやって2機が一丸となって戦うんです。」
なるほどー、と感心して風間さんはそのまるで遊園地の時計かのような正確な時計仕掛けの軌道を眺めていた。
「で、ここからが重要なんですが……風間さんは一緒に飛んでくれるお友達とかは居ますか?」
「部活で飛んでるからいるよ。」半世紀前からミームを輸出していったおかげでイルゼはその言葉を意味を理解できた。
「なるほど~。そうなりますと、では、何か大会とか、そう言ったものの予定が?」
「ああ、うん。国内のイベントで飛ぶからそこまでにしっかりと教えるって。……確か、フェアリィ祭だっけ?」
「成程。目標があるんですね。」相変わらずの笑顔のイルゼは一つ、提案をした。「もし、それで、これは、もし練習の時間が物足りないと思ったらで宜しいのですが……」イルゼはぬっと身体を乗り出してテーブル伝いに近づいて来る。その引き締まった身体は、豊満であるべきところが大体全部豊満であった。「私たちと飛びませんか?」
「え?そっちは朝になるけどいいの?」と言いながら風間さんはそれが羊の皮を被ったオオカミの口から出た者だと理解した。あ、やばい、そう思った時はもう遅い。ぐっと手を握ったイルゼが顔を近づけてくる。にっこりとほほ笑む菩薩の笑みが視界を覆い尽くした。
「それではお時間のある時に少しづつやっていきましょう。まずは最初は基本から少しづつ……」
テーブルから引っ張り出し、まるでタンゴを踊るかのようにくるくると回りながら両方の手のひらをぎゅっと握って思いっきり開く。腕が開くにつれて風間さんとイルゼの距離が縮まっていく。
「一緒に歩調を合わせて、ワン・ツー、ワン・ツー……です。」
引き寄せられた胸が明らかに中学までの間に全ての要所の成長ポイントを使い尽くしたイルゼの成熟した肉体が迫り、年齢規制で演算が切られている筈のたたわな山脈が風間さんの丘とも山とも似つかないそれを猛烈に圧迫している。
(ち、近い近い近い)
くるくると踊るイルゼに付き合う風間さんは圧倒され続けるだけだった。
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