第2話 風間さんと初めての空【5】

振り返って後ろの七瀬を見る。七瀬はもう背景のように全容がつかめない程大きくなり、周りは絶え間ないポリゴンとテクスチャの修正が行われ、そして、扇子の骨が見渡す限り続くという広さになった辺りでようやく止まった。

問題は周りの風景ではない。敵だ。

『敵は……?』

未だにロックオン表示は出ているが、敵は見えない。

『ずっと同じ位置にいるわよ。前方方位60、距離20マイルの位置に』

『……は?』

 風間さんが目を凝らす先には何も見えない。被っているヘルメットの装置のみがそこに敵がいるという表記を出し続けている。目を凝らす。あ、確かに点のようなものが見えた気がする……そんな具合だ。

『こんなにあるのか……』滝も同様に驚いていた。『映画とかの、もっと近いイメージで考えていた。』

『あー、うんうん。わかる。それよーくわかる。だけど、これが現実……。』

真道寺の言葉に先輩達は風間さんの前でうんうんと同意した。どうして現実通りにならないかと風間さんは問いたが、それの回答は単純明快だった。

『じゃあ、このままもう一回敵を探知して。そしたら今日は終わりにしましょう。』

 人差し指に力を入れる。風間さんは右上ノ「6B」の表示とその下の140の数字を見て索敵を開始する。水平方向にから上下三段を索敵して目標を再補足。再びHUDがロックオンの表示に切り替わる。その表示の先にはやはり敵は見えない。

『OK,よくやったわ。今日はこれで終わりにしましょう。』という声がかかったのはその時だった。風間さんはそのままシートの思いっきりもたれかかり、ふわああああという腑抜けた声で緊張によって生じた疲れを仮想現実に置き去りにした。


「おーい、大丈夫?」

 ログアウトから意識が元に戻るまでの間に数秒の間に風間さんを呼ぶ声がしたので焦点が合わないまま風間さんは声の主の方を向いた。そこには七瀬が立っていた。

 すっと立ち上がる。そして、七瀬の顔を見るために少しだけ自分の顎を引く動作に気付いた。まだ頭がくらくらしている気がした。乱暴な詰め込み教育でパンクしかけた頭ではどうもさっきまでの全容を把握できない程巨大な人物と、今目を合わせている少し身長の小さい人物が同一であるということに認識がうまく繋がらない。

「悪酔いした?」

 ななせさーん!とべろべろになった風間さんはその「悪酔い」の原因に抱きついた。

「おつかれ、頭パンクした?」

「ソレもあるけど、やっぱりいきなり巨大化は……やっぱり色々脳みそバグるわよ。」

 二重のやっぱりを繰り出す芽衣子と抱きつく風間さんにえーと不満の顔を見せた七瀬。そこに滝と真道寺のデバイスが二人が現実に帰還した事を告げた。

 七瀬は二人が頭を上げる前に風間さんを振りほどいて二人の前に立つ。二人は現実に戻った筈なのに目の前には上機嫌の七瀬が聳え立っていたことで認知のバグを起こしてしまい、そのまま椅子ごと後ろに倒れるハメになった。

「楽しい?」

芽衣子の問いに「めっちゃ楽しい。」と七瀬は答えた。こうっやって皆が腰を抜かす姿を見るのが楽しいという感覚について風間さんも芽衣子もさっぱり分らない。



「それにしても、あんなに離れた位置から撃ち合うってちょっと意外でした。」

「だって、そりゃあ、絵にならないから。」

 風間の問いに男二人を追い詰める七瀬からそんな答えが帰って来る。

「絵、ですか……。」

「そう、絵。」七瀬に代わって芽衣子が補足する。「そりゃあ、計器の表示だけの相手と撃ち合うなんて迫力に欠けるし、観客は何やっているか分らないじゃないの。実写だとさらに俳優を映せとか制約があるし……。」

「……それこそ結局敵味方が一枚絵に入らなくて迫力に欠けるなんて一大事よ。」七瀬が制裁を終えて話に戻って来た。「しかも読者にはまったく縁もゆかりもないバトルの常識とルールをいちいち説明しなければならない……それならばロボットに変身したりして慣れた殺陣をしながらと戦闘機物のミームを反復横跳びした方がずっといい。」

 なるほど。と風間さんは合点した。確かに納得できる話だ。異質なルールを理解させること、それは相手に精神的なコストをかける好意だ。そのコストを支払わせてでも教える意義が無いなら固執する必要はない。言われれば、当たり前の話だ。

「そ、故にその部分に焦点を当てて解像度を上げるにはまず固定観念を壊して新しいものの見方を理解する必要がある。」

 だから、距離感を判って貰うために巨大化したの、感謝しなさい。という七瀬の言葉に、風間さんは絶対嘘だと心の中で思った。


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 あとがき


作者です。こんにちわ。(ぶっ放たれるAIM-9X)

とりあえず2話終わりました。

3話で第一シーズンは終わりになります。次は解説と言うよりストーリーの方重視で書きますね。

風間さんは「書き続ける事」も目的なんてこのペースと質でちまちま書いていきます。


私事を語りますと、生きているのが辛い。この文才(笑)で前金一千万で雇ってくれる人いませんか?(しごとやめたい。)

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