第2話 風間さんと初めての空【4】

『じゃん!』

七瀬が腰から取り出したのは、扇子である。

どこにでもある扇子である。

それをエイヤ!と開くとその上には蛇腹を無視して水平な面が現れる。広がった扇子より少し角度が狭い扇形に円弧と同心円と放射線が書かると2機の機体はその要の部分に移動させられ、座標を同期した。それから七瀬の解説が始まった。

『さて、現代もこの時代も、戦闘機の武装……ミサイルとか機関砲……は火器管制レーダーの操作なしに真価を発揮することはできないの。だから、まずざくっと簡単にレーダーを解説するわ。』

 じゃあ前を見て。と七瀬が言うと扇子に書かれた右60度の線……一番右端の青い線だ。……に戦闘機があられれる。機体はSu-27、またはフランカーというが、風間さんはその名前は知らなかった。

『今視界に見えているのがレーダーでどうなってるか見てみて。右の画面にレーダーは表示しているから。』

 風間さんは左右と下の沢山のボタンが付いた画面のうち右側を見た。四角い画面を長い縦線が延々と反復運動を繰り返している。その右端には何やら赤いシンボルが光っている。それがさっきの相対する機体だということはなんとなく風間さんにも分かった。

『今見えているの分かるかな?扇子の上に表示した敵、扇子の上に表示した放射状の線は30度の線、それの二つ目、つまり60度に居るの。分かる?』

 途端に画面横に扇子を上から見た図が現れる。上からの視点だ。

『ええと、なんか、全然違うんですけれども。』

 上空からの視点と四角い画面の関連性が今一判らない。どこがどうなって繋がっているのか。

『今画面に表示されている画面が、どうやって扇状の方位を表しているかと言われれば……』

 こう、と七瀬が言うと画面横の扇子の要が外れる。そして扇子の骨が全て平行に改められていくうちにそれは右の画面と同じものに近づいていく。

『画面の方を一度見てくれる?下側の目盛りを今光らせているけど分るかしら、これが扇子と同じ30度の目盛りになっている。つまり横方向が角度になるの。』

 風間さんはやっと意味が分かったような気がした。本来は扇状に広がる方位を横幅で表現しているのだ。風間さんはレーダーの機械表示をじっと見ていると、じゃあ、取り敢えず次行くよと言う。顔を上げると扇子が半透明になっていて、機首を中心に機首方向に縦横70度づつの四角く薄い透過が放たれていた。

『で、次、今光っているのがレーダーの捜索範囲。見える範囲って事なんだけど……。』

 他のゲームの誘導兵器の事を念頭に置いて結構広いんですね。という風間さんにいいや、と七瀬が答えると、目の前に機首から細い光の柱が伸び始めた。

『……これが実際レーダー波出ている範囲ね。』淡い光のスクリーンの中で輝かしい小さな四角形が輝き始める。

『じゃあ、動かしてみるよ。』

 可視化されたレーダーが左70度の一から右まですーっと移動する。その移動がカラーマーカーで光れたように軌跡になる。

丁度、A4ノートに端から端までカラーマーカーで引っ張ったような具合だ。

『これが、レーダーの一回の捜索範囲。大体縦横3.3度づつって感じかしら。』

『……これだけ?』

 これだけ。七瀬はそう返した。

 目の前一杯の広がる捜索範囲のうち細い線が一本引かれている。まるで戦車の視界だ。にわかに信じがたい。


『大丈夫大丈夫、勿論これじゃあ何にも探索できないからもう少し幅を増やして索敵することも出来るわ。画左上を見て。』

レーダー画面の左上を注目するとそこには「1B」という記述があった。

『そこにある「1B」ってあると思うけどこれは今みたいに一段だけレーダーを動かすって意味合いで、これを押してみると……』

押すと表示が「2B」に変換された。レーダーがまた最初の地点から動き始めた。それは右端に行くと下に下がり、それから元北方向に戻り始めた。

「4B」を押す。するとまた窓ふきのようなレーダーの捜索が左右折り返しを2セット。

 これだけ?という掌の上の後輩に七瀬は二回目の『これだけ。』を答える。

『す、少ない……』

『も、もっと視界は開けていると思った。』

 風間さんも滝もただ視界一杯の大空を行く戦闘機の視界が覗き穴を除くような窮屈さ(by新道寺)で敵を探すとは全く予想していなかった。カルチャーショックに心ここにあらずという表情で風間さんはレーダー画面とその索敵範囲のグリッドを眺めていた。それは天井からじゃあ、動かして見ようか。と声がするまでずっとしばしそのままだった。

『まず、縦の動きはスロットルの今人差し指が触れている3Dスティックまずこれでレーダーカーソルを動かして相手を探す。押してロックオン。』

指が勝手に動く。七瀬に事前に動きを預けていた風間さんはそれを邪魔しないように指の力を抜いて身を任せる。指の腹がスロットル裏のすり鉢状になった3Dスティックに触れて力を加えると画面の縦の二本線で構成されたカーソルが画面を動き回る。標的をロックオン。

『で、さっき言った上下額の移動はそのスティックの左脇、ここで上下を調整する。』

指が今度は少し左のホイールに行き当たる。その上下が移動すると画面右の操作角度を示す表示が上下に移動した。

一度操作を元に戻された後、滝と風間さんは実際に目の前の敵機を探すべく挑戦する。未だレーダー波は出た状態だ。目標機体に光が当たるのを確認して上下角を固定した後カーソルを動かす。

『なんていうか。夏休みとかに投げ売りされているレトロゲームみたい。』

『そうね。まさにこの世代の兵器が最初に世間に登場したときに言われたのもそれだったのよ。』

芽衣子が二人が無事操作を終えたことを褒めたついでそう言った。

『だったら、風間なら得意じゃないか?お前、そっちも結構いける口だろ。』

『そうかもね……。』

最悪相手を見ればいいしね。と、くすっと笑う風間さん。それに、あーと七瀬は声を上げて一つ訂正を行った。

「言っていなかったけど、この目の前の敵機の大きさ、相当デフォルメしているから。」

今元の大きさに戻すよ。その一言と共に世界が拡大し始めた。


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 あとがき

作者です。こんにちわ。(ぶっ放たれるAIM-9X)

今回は戦闘機のレーダー操作に関するお話でした。多分、現在、そして風間さんが暮らす近未来の技術だと色々変わってくると思いますが、現在主流のAESA以外のレーダーはこんな感じだと思います。(どっかの上級シマーが上げていたF-35のレーダー画面だととんでもない探知範囲が示されているからAESAはもっとすごいんだろうなあ。)

さて今回、バースキャンを解説するにあたり資料もあるし楽勝だねと思っていたら、一バーの操作当たりの「高さ(上下角度)は縦何度?」で思いっきり混乱してしまって一日かかりました。

一部資料では、縦は1.3度となっていまして、最初はこの数字をそのまま使うつもりでしたが、それだと4バースキャンでも5.2度しか探知できない。なんかおかしくね?と資料をひっくり返す(正確にはパニックに陥ってじたばたする)ハメに。で、 航空軍事用語辞典様で3.3度という数字を見ていよいよ混乱は頂点に達してこの時点でやけくそになった私は某フラシムを起動して直に計るという邪道に走りました。

少しだけ、地球平面論者が定規を水平線に充てたという話が頭をよぎりましたが、まあいい、とりあえず操作範囲を表示して四則計算で割り出しを開始。

結果、6バースキャンは捜索範囲(縦横70度)に対して縦方向に20度ぐらいを示していました。

つまり、20を6で割ると、3.3度。

ということで、本作では一バー3.3度という事で解説します。反論、資料の読み方を教えてくれる方は是非連絡をお願いします。適宜修正します。(他力本願)

1.3度が資料的に間違っている訳ではなく、読み方が甘くて何か致命的な読みな読み落としをしているのだと思います。うん、食うために理系を断念したド文系ってこの程度だね。(つらみ)

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