第4話 風間さんとお砂糖の菩薩様【1】
JG109公開サーバー「エアラウンドバトル」最前線
『あれは、どう思いますか?』
少女は尋ねる。
『追われている、だろ。どう見ても。』
答えるのは男の声。少しの間、沈黙があり、それから続きがあった。
『で、どうするんだ、イルゼ。』
でも、まあどうせ、答えは決まっているんだろう。そう答える前に既に彼の予測通り、イルゼと呼ばれた少女は『助けますよ。』と回答。素早く指示を出し。追われているF/A-18Cを挟みこむように編隊を整える。
『あの直線的な動き、おそらくは始めたばかり、しかも単機で飛んでいるって感じですかね。』
少し嬉しそうな声に男の頭の中にはああ、またか、という言葉がニューロンに浮かびそれから頭を抱えたい気分になった。残念なことに、HOTASという概念はコックピットの中で頭を抱えさせる様には出来てはいない。
『お友達は多い方が楽しいですよ。』
面倒ごとに顔どころか全身を突っ込むという宣言だった。
『捨て猫で家が潰れるぞ。』男は呆れた様子で指示を待つ。
そして、その正面15マイル先では、F/A-18C……風間さん……はスロットルを一番上まで押し上げてどうすればいい?とパニックになっていた。
「う、撃ち落とされる……。」
風間さんがこうなった理由は、おおよそ30分前、初めてのオンラインサーバーで「どなたでも」とかいてあったサーバーを見つけて入ったからという理由に尽きる。
「ひーやられる……。」
チャフ、フレアは既に尽き、後ろの敵機の距離は少しづつ縮まっている。敵はF-16が2機、敵はミサイルがないのか、あるいは節約のためか、一向に撃ってこない。舐められているのかもしれない。
あとは撃ち落とされるだけかと思った矢先、何かが猛スピードで横を通過した。そんな気がした。
『ミーティア、撃って、どうなりました?』
『トレイル(後方)の敵機はターニング・コールド(反転)。リード(前方)は、今だに接近中。』
彼女は即座に理解した。敵も、馬鹿だ。しかも編隊連携を無視するこっちの方がより重症度が高い。
『向こうはこちらの接近に気付いていても、レーダー上では見えていないようでうね。』敵の不注意を悟るとイルゼという少女は『では、援護に行きます』と敵を目指して飛んでいく。
だだだ、と薙ぐような一閃が機体のすぐ下を通り過ぎる。機関砲だ。ギリギリ出鱈目な動きで回避するもそのせいでスピードは落ちて、そしてさらに敵は近づく。
「次は……当たる……。」
もう一閃。今度は当たった。よく見ると右垂直尾翼の上の方が吹き飛んでいる。
「誰か……。」
風間さんもこういったチーム勝敗のない対戦ゲームでは助けなど普通はこない事など分かっている。みんな自分のスコアが大事だ。つまりは3,現実は非常である。というわけだ。普通は。
「助け……」
だが、最後の、「て」が言い終わる直前、何かが自分の直ぐ脇を掠めて飛んでいく。そして、後ろの敵が慌てて進路を変更しようとした瞬間、爆発に包まれて複数の部品に分割されたまま火を引いて落ちていく。一撃必殺、パイロットの脱出は無かった。
「た、助かった……」
振り向くと2機の全く違う輪郭をした戦闘機が振り返り、接近してきた。味方らしい。証拠に、塗装が出撃した陣営に合わせて旧共産圏風の迷彩になっている。片方の機体は一枚主著首翼のデルタ翼、もう一機は自分の機体と同じ二枚の垂直尾翼、をしたカモノハシみたいな鋭角を持った機体。横に並んだ機体はパイロットの姿形どころかリペットの一個一個まで見えそうだ。
よく見れば右側に付いた二枚垂直尾翼の機体の操縦席から誰かが手を振っていた。風間さんは手を振って答えると、突然無線機が音を発し始めた。
『……聞こえますか?ホーネットのパイロットさん?操縦系は大丈夫ですか?』
甘い匂いの柔らかな声がした。どうやら、帰路を誘導してもらえるらしい。そしてそのまま飛行場へ。先にどうぞと道を譲られた風間さんは先程の挨拶一つでこの関係が終わらないのを理解し、短い付き合いでは終わらない相手はどんな人なのかなあと思いながら彼女の機体の後を追い始めた。
数分後、適当な所に機体を止めて降りてきたのは、自分と同い年ぐらいの少女だった事に風間さんは驚愕することになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます