Sortie1:with the Breeze!
第1話 風間さんと風の翼【1】
スポーンゲートを抜けると、そこは、コンクリートの大地だった
風間さんはそのコンクリートの大地を踏みしめる。しかし、大胆な話だ。他の部活紹介が、あくまでウェラブル端末による映像なのに、何故、この部活は、フルダイブなど要求するのか。
当然の如く、ダイブした新入生も、ナノマシンを飲まずにあくまで没入型ヘルメットを借りた新入生も、みんな困惑していた。なんだ、これは、と。
風間さんはコンクリートの色がおかしいと気付く。黒くない。それが普段コンクリートと呼んでいるものは、じつはその上に敷かれたアスファルトをそう呼んでいたものだと気付かぬまま、風間さんはぼけーっと地面を見たまま次のアナウンスに不意打ちを食らう形になった。
『皆さんは、空を飛んでみたい、そう思った事はありますか?』
やけにハウリングが効いた声、スピーカーか、風間は声の出所を求めてきょろきょろと左右を見渡す。
『わたしは、あります!』
急に回りが轟々としはじめた。
何、何なの?と恐怖する子もいた。ダイブ慣れしていると思しき一団も、迫ってくる音に威圧される。
『ある時はイカロスのように、ある時は魔女のように、ある時はヒーローのように……』
風間さんはというと、どこかで聞き覚えがあるような、無いような音の位置を探すのをやめて天を仰いだ。
『そんな私が手に入れたのは……この、音速の翼。』
いきなり切り裂くような音かして、空が遮られた。
矢尻のようなシルエットが頭上を通りすぎ……
まるでコンクリートの壁のような衝撃、押し潰されそうな勢い。その猛烈な力を残して、翼は空に上って行く。
『皆様、ようこそ、空へ、』
駆け上がる空をくりぬいたような黒いシルエットは空高く舞い上がったと思ったらそのまま三機編隊を組んで宙返りして、再びこちらにやって来た。今度は全員がそれを見ていた。突き抜ける、矢じりが頬をかすめて飛んでいくような風。
『我が飛行部は、そんな夢を叶える皆様をお待ちしています。』
再び青空を切り裂くように青い戦闘機が高く舞い上がる。
その翼は風をつかみ。
それから大きな弧を描いて。
地面を触れるぐらいの低空を、自分の頭のほんの少しだけ上をかすめてそれからまた高いそらへと上がっていく。
「わあ……」
風間さんは気がついたら右手を高く上げて平手でその飛行機の後を追っていた。
一度目は恐怖だった強烈な風も、もう心地よいと感じる。
鼓膜を破らんとする猛烈な音も、恐怖より開放感を感じられるようになった。
部活一つに与えられた勧誘時間はあっという間に過ぎた。青空と飛行場は消え失せて、気が付けば体育館の中に戻っていた。
「何だよあれ、びっくりしたじゃないか。」
「驚かせるのはいい加減にしてほしいわね。」
「うーん、サイバネ無線RUNが痛い……」
周囲の反応は大体が有難迷惑、といった感じで、口々に驚かされたと言って次の部活紹介に心を切り替えていった。
「凄い……凄かった。」
その中で、風間 千秋は畏怖、という言葉が初めて辞書を超えた肉血を持ったものとして心の中に刻まれていた。ただし、その心の変動が自分をどこに導くか、それは彼女にも分からなかった。
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