Sortie2:Rotte with you on sylpheed!

二章序 それで、じゃあズボンにすればいいんじゃないかと言うと七瀬さんは夏に蒸れるからいやだと言い……(上)


 それは、まだ、最終試験が行われる少し前の事……

 ゲームに飛び込んだ先は少しだけ丸みがかったのっぺりとした草原の中の池のような所だった。その池の上に風間さん達は立っていた。

「ここは?どこですか?」風間が場所を指定した七瀬に聞くと背のほんの少し低い先輩は笑ってただ、「黒海」とだけ答えた。

「え?」

「ちょうどその背後の陸地がトルコだね。あ、私の後ろ側がクリミア半島。」

え?!と振り返る。衛星地図みたいな大地には所々に赤と灰色の苔みたいなものが点在する。それが都市だと気付いた時に今の現状がどういった状況なのかを大体把握できた。ちなみに今風間さんが踏んづけているのはサムスンという町だが、それは戦前の個人端末メーカーとも関係がないし、この後の話にも何の関係もなかった。

「ええと?10キロぐらい?」

「そうだね。今私たちは大体身長一万メートル……そうだなあ……高度三万フィート前後って感じかな?」

 そういう意味ではようやく見慣れた、とも言える光景だった。

「ええと、今日はミサイルのお話ってさっき言ってましたけれども?機体に乗らなくていいんですか?」

 いいよ、今は座学。そう言った七瀬はゲームUIを点灯させる。丁度目の前のハエのような点に「TETRIS」の文字が浮き上がる。芽衣子さんのTACネームだ。

「さて、今からミサイルの説明をするんだけど、その前にミサイルって命中までどんな動きをすると思う?」

「まっすぐ敵機に飛んで行って……」

「煙をごーって出して……」

 まあ、そうだよね。と七瀬は黙って頷くと七瀬は次の質問をした。

「で、ミサイルってどのくらい遠くの敵を仕留めれると思う?」

風間さんは即座にネット辞典で百キロぐらいという数字を拾い食いした。

「おーけーおーけー、じゃあ、早速結果を見てみよう。」

 じゃあ、芽衣子、お願いね。とコバエ以下の大きさにしか見えない同級生に合図を送ると、了解と返した芽衣子はミサイルを反対側同高度にいる新道寺に発射した。使用機材はAIM-120だ。ミサイルの部分は別窓で拡大画像を出している。

 ごーっと音を立てながら赤い炎を出してミサイルは弓なりに上昇する。そして、すぐに燃焼は停止した。

「あ、故障だ。」

「いや?」七瀬は滝のその言葉を否定した。「これで燃焼終わり。」

「「ええ???」」

驚く二人だが、七瀬は再びこれで正しい旨を説明する。

「え、でも、ミサイルってずっと煙を出して……」

「そりゃあ漫画や映画で絵になるからそーしているだけ。」七瀬はそう一刀両断する。「ミサイルの推進装置なんてロケット花火と同じようなものだし、そんなに長い間燃え続けるなんて無理。」

 ミサイルはこの序盤にロケットエンジンで稼いだ速度と高度をちびちび使って敵を追いかけるの、と解説する間にもスロー再生したミサイルは真道寺を目指す。真道寺はスプリットSを決めてそのままミサイルを振り切った。その反転距離は百キロより遥かに近かった。体感的には自分4人分ぐらいの距離か。

「で、風間の言った百キロが射程って言ったけど、それはその距離までミサイルが飛びますよーっていう話でそれが有効射程って訳じゃあないんだよね。」

新道寺と芽衣子のミサイルの機動を表示する。一秒ごとの時間を見える形で区切っている。風間さんはまるでアキレスと亀のパラドックスを見ているような気にさせられた。

「これを見て。ミサイルは最初マッハ5で滑空する。」

 それ自体がもう常識の範囲外だが、風間さんは黙って聞いていた。

「燃料は使い果たしているからミサイルは運動エネルギーと位置エネルギーの総和はこれ以上増えないし、もっと言えば空気抵抗で徐々に減ってく。一方戦闘機はマッハ1.5でしか飛べないけど、常にジェットエンジンがエネルギーを供給し続ける。」

「つまりは、瞬発力に劣る動物がチーターが疲れてしまうまで持久走で逃げ続けるって感じ?」

 滝の質問に「そういうこと」と七瀬は返した。

「やっぱりイメージ違った?」

「どーしてもどこまでも煙を吐いて追ってくるイメージが。」

 そもそもミサイルの内臓電池も一分半ぐらいで尽きるからね。映画みたいなデットヒートは、まあ無理だね。と七瀬は言う。一年前の自分を見ている気分だった。

「尤も、今のミサイルは底から大分進化していて少し映画みたいになってるかな……」七瀬が指さした先の空間には現用最新鋭の空自戦闘機F/S-3A「ファイティング・スティングレイ」が姿を現してAAM-9空対空ミサイルを先程のような拡大画面に表示しながらぶっ放す。

「……最初のロケットモーターが燃焼するとラムジェットに燃焼を切り替えて飛んでいく。」

 映像の中ではミサイルはどこまでも高高度を加速しながら飛んで行って200キロ先に飛行しているUACVに一直線に向かっていく。そして、ラムジェット区画を切り離す。

「そして、もう一回分だけ残した燃料で加速して敵機に命中する。」

 言われた通りエンジンを再点火したAAM-9は命中した。

「私たちが使っている四世第戦闘機のミサイルでもミーティアとかダービーとかはそういう方向への萌芽があったりするけど、基本的にはこの時代のミサイルってさっきの感じかな?」

 風間さんはなんとなく分かった気がした。つまりは、何も判ってないということだった。

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