第3話 風間さんと最終試験【4】

『芽衣子!!お前、マジふざけんなあああああああああああああああああああああああああああああああ!!』我を忘れた七瀬がこの案件の容疑者へ激しい突っ込みを突入させた。『やっぱり仕込んでるじゃねーか!』

 取り敢えず一時的にシミュレートをOFFにする七瀬に対して芽衣子の反応は『ん?』という余裕ぶった声だった。

『ん?じゃないよ!芽衣子!』七瀬のそれはおふざけ無しのガチギレだ。『変な仕込みは無いっていったじゃん!』

『あら?貴女こそ、ちゃんと検品して大丈夫って言ったじゃない?』

 うっ、と言葉に詰まる。それを言われたらどうしようもない。

『とにかく、試験は無効!シュミュレーター停止!』

 ネガティブ!と余裕ぶった声が聞こえた。

『試験の合否に関わらず飛行は最後まで続けるわ。』

 むすっとした顔で七瀬がないか言おうとするが、それを抑えて芽衣子が話を続ける。

『私たち時もそうだったじゃない?ブリーフィングで説明した目標を全機撃ち落とすまでが最終試験だけど終わるまで終わらないのが最終試験のフライト。』

『……そうならば、今から風間を援護してもいいよね。』一昨年滝と同じ間違いをした七瀬が過去のトラウマ事思い出す。『じゃあ、そのための付き添いだから。』

どうぞ。という声がすると七瀬は話相手を変更した。

『風間?いいわ、ついでにネタバレするわ、』ここまで信義に従って開かなかったゲームのマップ情報を見ながら風間を囲う敵機の情報を確認する。『放たれたUAVだけど、武装は最古の赤外線ミサイルのみよ。』

『種類分かります?』

『暗剣の初期型だね。風間が言ってた奴。』先ほどの会話に出てきた海峡戦争で猛威を振るったものとまさに同じ型番だ。

『装備は弱いけど、派手に機動してくるよ!武装は最低限まで落としているけど、ヤバいと思ったらスロットル引いてフレアをばら撒いて。』

分りました。と風間さんは返答した。

『……いい、風間、すぐ助けに行くから!やることは、分かるよね。フレア撒いて逃亡。反撃は二の次でいい。』

『はいっ!』

 演算が再開される。時が動き出したのだ。

 風間さんはセンサーコントロールスイッチの上部分を長押ししてACMモードを長距離で選択、索敵範囲を狭める代わりに自動で敵を照準できるモードだ。

敵が撃ったら撃てば、それが攻撃になる。あとは、逃げるだけだ。

『とっちにいます?七瀬さん?』

『今正面にいる。そのまま逃げて。』

風間さんは迫ってくる敵機に正対してフレアを蒔いた。熱源を隠され、その熱源の力を弱めた風間さんの機体を第一世代型の赤外線誘導ミサイルが捉えるのは不可能だった。敵機とすれ違う。暗剣の初期型だ。

『方位、180へ!いま助けに行く。』

 七瀬の言葉をを信じて飛翔する。アフターバーナー全開。スロットルを押し上げて遁走しようとする、が、事前に後ろに付く軌道を取った無人機が第一世代赤外線ミサイルが風間さんを目指す。

 首が痛くなるくらい後ろを振り向き、襲撃に備えていたのが功をなした。白煙が真後ろから延び始めたのを視認。赤外線ミサイルなので警報の類いはならない。風間さんはスロットルを手前側に引いてエンジンカットそのままスロットル上部のチャフフレアスイッチの後ろ、フレア放出スイッチを押し込み、ゆっくりとロールしながらミサイルを回避する。それからスロットルを押し上げる。ミサイルは外れる。後ろにいたUAVは無茶な軌道を嫌ったのか追従しない。

(今はどうなったけど、どうしよう……)

 そう思っている間にも、無人機はその風間さんに追い付き、追い抜く。

 誘ってる……恐らくは前の機体が囮になって後ろの機体が射撃するつもりなのだろう。そんな気がした。

 前を向く、それから再び後ろを見るために。視線がHUDを外れる。視線の先にはさっきまでは意識の範疇からはみ出していた動く緑の丸を確認した。

 そうだ、と風間さんはその存在を思い出した。AIM-9X、サイドワインダーのオフボアサイト射撃これな撃てるかもしれない……と思った

 一瞬で落とせるか、風間さんはウェポンセレクトスイッチを押し込み、HUD先空間を見つめる。頭を上げるとそこには無人機がいた。その機体にシーカーの視野を表す円が重なる。

 親指をスイッチの下のゲージ/アンゲージのボタンに伸ばす。円が小さいものに置き換わる。ミサイルが捉えた証拠だ。トリガーを押し込む

 飛び出したミサイルは垂直に見える角度で飛び出す。見ている暇はない。機体をロールさせて離脱する。

『スプラッシュ・ワン!スプラッシュ・ワン!』

七瀬の声だ。

『よくやったね。そのまますれ違うまで逃げて。』

それからは?と聞くと孤立しているとまたなんかあったら怖いから反転して遠巻きに攻撃できるなら攻撃してと指示される。

『FOX3!』

『インスト、FOX3、リード・グループ、ブルズアイ350/25 ツー・サウザント、トラック、ホット!(インスト、アクティブミサイル発射、グループ方位350度、25マイル、高度2000マイル、飛行方位、こちらへ接近!)』

ミサイル、ついでJ-15とF/A-18Cが脇をすり抜ける。

『よし。騎兵隊の登場だ!』

二人が突き抜けた。どうすればいいと聞く風間さん。それに対して二人はそのまま孤立されて別の罠を踏んだら悪い。一緒に戦ってくれた方がいいんだけど。と言う様な事を言う。はい。と風間さんは答えて進路を反転。スロットルカット、ロールをしながら向かってくる敵機にミサイルを撃ちこむ。

『ナイスキル!』新道寺が褒める。『大胆だね風間は。もっと大胆に飛んでみない?』

お断りします。とやんわりと拒否すると新道寺は『がーん』とショックを受けたそぶりを見せる。その間にも新道寺は七瀬と共に敵機を片付けていく。そして、あっという間に終わった。


『空域クリア。全部落とした。』

七瀬が宣言し、そして、芽衣子がそれを肯定する。

『で、風間は合格よね。こんな無茶苦茶なおまけをつけるなんて……。』

『言うまでもなく、そうよ。』

『だって、試験の採点はとっくに終わっているから』

『へ?』

『例年通り、爆撃機の後部機銃に近づくか否かまでが採点対象。からエクストララージよ。もう、試験はおしまい。私たちの時もそうだったじゃない。』

『七瀬さん?』

風間さんの問いに『忘れてた……。』と答えた七瀬は頭をかいて忘れていたことを誤魔化した。


『ダメだよ芽衣子、女の子は大切に扱わないと。そっと手を取って、ね。』

新道寺が言う。そういえば、どこ?と七瀬が確認すると、すーっと風間さんの機体を後ろから舐めるように飛行していた。

『めいこ~新道寺が言うとただのナンパに聞こえます。』

『以下同文。』

ひどい!という新道寺の嘆きがこの試験の最中の最後の台詞になった。



「……で、どこに隠していた?」

 現実に帰還するなり七瀬は芽衣子にそれを問うた。返答としてマップ端の小さな飛行場に隠しイベントを抱えたムスタングが止まっていた。

「条件は?」

「出現条件が最初の無人機の素早い全部撃墜で、発動トリガーはTu-22Mのガン射程まで近づいたら。」

「なるへそ、滝の自爆か。」

「お、俺の……自爆……。」

 滝の声がした。振り返ると、現実世界でも海に突き落とされたかのような真っ暗な顔をしていた。

「落ちた後、派手におぼれていたのよ。」

もしかして、と七瀬が尋ねると滝は「お、俺……泳げない……」と素直に金槌であることを認めた。

「これぞホントのばちゃーる体験」

「は?寒!」

突っ込む芽衣子。そして、それから滝の方を向き直るとこう宣言した。

「じゃあ、滝のTACネームは、カナヅチに決定!」

「ひどい、良心がない。」

「さて、滝?」芽衣子が会話に割り込んできた。滝は見た。あれは明らかに苛めを楽しむ目だ。

「撃ち落とされた、それも風間の忠告を聞かずに自爆して風間さんに迷惑をかけたの、分る?これはお仕置きが必要ね。」

「……あ?」

「滝はサナダムシVRの刑!」

ひえっ!と滝は悲鳴を上げる。しかし、先輩二人の力の前には無抵抗、そのままヘッドギア式のフルダイブ装置を再びかぶせられるなり、机に頭から押し付けられた。

「処刑の時間だ!」

「助けて!!」

「観念して入りなさい!出来ませんでは良心がない!」

女手二人に地獄に突き落とされそうになった滝は助けを求めて新道寺の方を見た。新道寺は特に助けるわけではなく、頑張れ、と手を振っている。どうやら力関係は微妙な関係で芽衣子の方が上らしい。

「風間……?」

「がんばれ。」

滝はお楽しみのサナダムシVRへ、いやだーという声を残して滝は電子の世界の虚無に消えていく

滝の精神を地獄に見送り、肉体を再び机に突っ伏させた後、風間は滝を地獄に見送った二人が戻って来るのを待って向き直った。


「じゃあ、風間の分をはっぴょー!!風間は生き延びたからかっこいい二つ名でいくわよ。」

どんな名前ですか。風間さんは沢山の不安と多少の期待を込めて聞く。じゃあ、それなんだけど……と勿体ぶる芽衣子におびえる風間に新しいTACネームが付与される。

「Breeze、そよ風でどうかしら?」

「……そよ風。」

その響きを少しだけ脳内で反芻して、それから「綺麗で素敵だと思います。」と笑顔で答えた。

「いい?ネトゲ用に使い慣れた名前とかあるならそっちでもいけど……。」

少しだけ考えた後に、いえ……こっちにします!と答える風間さん。

「じゃあ決定!」と七瀬が予定外のトラブルを埋め合わせるぐらいの勢いの笑顔で手を差し伸べてくる。「宜しくね、ブリーズ!」

宜しくお願いします!と風間は差し出された手を取った。




◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□

 あとがき

作者です。こんにちわ。

というわけで、ここで飛行部の風間さん、第一章完成しました。

予定していた「兵器の使用に関して現在できる限りの最大解像度で描写する」という目標は、まあ達せたと思います(どこが?)

今後もマイペースですが更新を続けていきたいと思います。よろしくお願いします。

どこまでシリーズを続けるかはわかりませんが、シリーズが続けば試作版で出したイルゼだけじゃなくて褐色筋肉バカとか、表はハイソ、VRでは火力狂信者とか、多種多様な風間さんを揺さぶり、戦闘機へ足を運ばせる悪友達を出したいと思っているので、そんな悪友達に囲まれながら空を飛ぶ風間さんを見たい!と思ったらどうぞ評価をよろしくお願いします。(飛行機描写?本物のPや他のフライトシマーに見つかったら殺される……)

PS

丁度某有名航空大作の続編が始まった時期と重なりましたね。いや、だからってどうこおういう訳じゃあないですけれども。好きな機体が題材なので見に行きたいですね。(ちなみにあちらさんはスーパーホーネットですが、個人的にはレガホは思い入れのある期待なんでこっちの方が好き。)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る