きつねこちゃん
きつねこちゃんは、ミケちゃんの外猫時代からのお友だちの茶白猫。野良猫の女の子でした。
きつね色と白色をしているから、「きつね」と「ねこ」をくっつけて「きつねこちゃん」。やすらぎさんが名付けました。
きつねこちゃんとミケちゃんは、「ヒュルル〜」と本物の狐みたいな鳴き声で、お話をすることがあります。
仲良しの女の子同士の暗号なのでしょうか。どんなことを話しているんでしょう。あそこのお庭にはきれいなお花が咲いて小鳥さんも来ているとか、昨日はおいしいおやつを食べたとか、隣町のボス猫はカッコイイとかなのかな。
2017年の夏の日。
ミケちゃんの姿を見付けて、やすらぎ治療室の前までやって来たきつねこちゃんに、ミケちゃんは自慢げにご報告です。
「あっ、きつねこちゃん、お久しぶり! わたしね、ここのおうちの子になったの」
ミケちゃんの報告に驚くと共に、ちょっぴり羨ましくもあるきつねこちゃんでした。
その数日後。
ミケちゃんと遊びたいきつねこちゃんは、お外に行こうと誘いにやって来ます。
「ミケちゃん、昔みたく遊びに行こうよ。お外は自由で気ままだよ」
「きつねこちゃん、ごめんね。遠くに行ったら、やすらぎさんや奥さんに心配かけちゃうの。ここで、おしゃべりしようよ」
きつねこちゃんは、つまらなそうに帰って行きました。
それから、しばらく、きつねこちゃんは姿を見せず、ミケちゃんは「きつねこちゃんに何かあったんじゃないか」と、心配になりました。
秋になって、やっと、きつねこちゃんがミケちゃんに会いに来ました。
きつねこちゃんは、うれしそうに、ミケちゃんに言いました。
「ミケちゃん、わたしね、ごはん食べさせてくれるおうちを見付けたの」
「わぁ、良かったねぇ、きつねこちゃん!」
夏から秋にかけて「きつねこちゃんにあった」のは悪いことではなくて、良いことだったのです。ミケちゃんは、元気そうなきつねこちゃんを見て、一安心です。
秋が終わり、冬になりました。
久々に、お店のガラスの向こうに現れたきつねこちゃんを見て、ミケちゃんはびっくりしてしまいました。
「あれっ? きつねこちゃん、首輪着けてるし、前よりふっくらしたよね?」
「ミケちゃん、お久しぶり。わたし、すぐ近くのおうちの子になったの。お外を見てるミケちゃんをお部屋の窓から見つけて、報告しに来たのよ」
「やったぁ! おめでとう、きつねこちゃん」
ミケちゃんは、きつねこちゃんにも住むおうちができて大喜びです。
これでもう、きつねこちゃんは寒さも暑さも雨も風も何も気にせず、安全に暮らすことができます。お外での厳しい生活は終わったのです。
きつねこちゃんは、それからも時々、ミケちゃんに会いに来てくれました。
やがて、年も替わり、春がやってきました。
桜の花も満開です。
ミケちゃんときつねこちゃんは、治療室のガラス越しに仲良くお花見をしていました。
「ミケちゃん、桜の花びらが風でどんどん散っていくよ。ちょっぴり、寂しいな」
なんだか寂しそうなきつねこちゃんを見て、ミケちゃんが言いました。
「きつねこちゃん、また来年もいっしょにお花見出来るといいね」
「そうだね、ミケちゃん。桜のお花は、来年も春になったら咲くものね。うん、また、いっしょにお花見しよう」
でも、ミケちゃんときつねこちゃんの約束は果たされませんでした。
この後すぐに、きつねこちゃんは完全室内飼いの猫になって、もうお外では姿を見かけなくなったのです。
きつねこちゃんと会えなくなって寂しいミケちゃんですが、これもきつねこちゃんの安全と幸せのため。
ミケちゃんは、きつねこちゃんのお家の方を見て、心から祈りました。
「きつねこちゃん元気で。幸せに暮らしてね」
きっと、きつねこちゃんも窓からやすらぎ治療室のミケちゃんを見ながら願っていることでしょう。
「ミケちゃん、幸せに長生きしようね」と。
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