お泊まり記念日

 ミケちゃんの不妊手術から、半年後の4月1日。


 春とはいえ、まだまだ朝晩は冷え込みます。

 そんな花冷えの夜。

 やすらぎさんが何度外に出しても、ミケちゃんはお店の中に入って来てしまいました。


 とても悲しそうなミケちゃんの瞳を見て、やすらぎさんは試しに、ミケちゃんをひとりで治療室に泊めてみることにしました。

 

 借りている店舗ですから、もちろん不安はあります。

 誰もいないのをいいことに、待合室のソファーや柱で爪を研いだりはしないか? いろいろなものを引っ繰り返したり、こわしたりはしないか?

 何かの拍子に、ミケちゃんが怪我をすることだってあるのです。

 

 でも、このころには、やすらぎさんの中でミケちゃんへの信頼が大きくなっていました。

 とはいっても、やっぱりミケちゃんを一晩ひとりっきりにしておくのは不安です。

 やすらぎさんは朝になるのを待ち兼ねて、大急ぎでお店に行きました。


 でも、やすらぎさんのそんな不安など余所よそに、ミケちゃんはいたずらもせず、ましてや粗相そそうなどもまったくなく、とても良い子で待っていました。



 その日以来、ミケちゃんは、毎晩、治療室で寝泊まりするようになりました。

 2021年の4月1日、お泊まり連続記録は5周年を迎え、今も、記録は更新中です。



 昼も夜もお店にいるようになって、押しも押されもせぬやすらぎ治療室の飼い猫になったミケちゃんでしたが、最初の年くらいは、それでもお昼間、ご近所のパトロールに出かけることもありました。

 でも、それもだんだん無くなって、今では、すっかり室内飼いの家猫になりました。


 ミケちゃんがまだ子猫で公園にいたころから知っている新聞配達の青年は、やすらぎ治療室で看板猫になったミケちゃんを見付けて、「三本足のあの子は、ここの猫になったんだ、良かった!」と、とても喜んでくれました。

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