マイルールとお昼寝とたこ焼きの作り方

 猫は自分で決めたことは、ちゃんと守ります。


 ミケちゃんにも、マイルールがあります。


 やすらぎさんが、困るようなことはしない。

 迷惑になるようなことはしない。だから、いたずらはしない。

 柱やソファで爪を研がない。

 ごはんが置いてあるキッチンには、入らない。

 初めてのお客様や猫が苦手なお客様が来た時は、息をひそめて気配を消す。

 反対に、常連の猫好きなお客様が来た時にはお出迎えする。

 

 子猫の時から、ずっと外での生活をしてきたミケちゃんは、目の前にいる人がどんな人なのか見抜く力をつちかってきたのでしょう。


 警戒をいてもいい人。

 そばに、行かない方がいい人。

 早く逃げた方がいい人。


 優しく親切な人ばかりではない。悪意を持ち危害を加える人たちだっている。その見極めがつかなくては、外での生活で身を守ることはできなかったはずです。




 2018年の秋のある日。

 やすらぎさんのボクシングジムの後輩が上京して、治療室にも寄ってくれました。


 やすらぎさんは元プロボクサーです。引退後には母校の早稲田大学でボクシング部のコーチもしていました。


 その後輩は、学生時代はやすらぎさんのライバル校、東大ボクシング部元主将。東大大学院卒の律儀りちぎでひょうきんな好青年です。(やすらぎさんいわく「ドラマ化したい人物」だそうですよ)


 その彼が待合室の赤いソファーで、たこ焼きの調理手順を熱く語り始めました。彼は大阪のたこ焼き屋さんでアルバイトをしていたのです。 

「切って切って回す♫ 切って切って回す♫」と、身振り手振りで熱弁を振るう彼のすぐ横ではでは、なんと! ミケちゃんがぐっすりと眠りこけていました。


 この赤いソファーはミケちゃんのお気に入りのお昼寝場所です。

 だけど、いくらお気に入りの場所であっても、たこ焼きの作り方を熱く語り続ける彼の横ではソファの振動もかなりなものです。それでも、ミケちゃんはまったく動じず熟睡中です。


 きっと、ミケちゃんのマイルールのトップには「やすらぎさんと仲良しの人は、わたしも仲良し。だから安心」とあるに違いありません。


 猫好きで、やすらぎさんと同じくマラソンが趣味の後輩に、ミケちゃんはすっかり安心しきっていました。

 それに、すぐ向かいには、やすらぎさんが笑っているし、いざとなったら守ってくれるとミケちゃんは信じていたのかもしれませんね。

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