甲状腺機能亢進症 1

 2020年7月31日の夕暮れ時。

「ミケちゃん、体調悪そうなので病院に連れていきます……」のツイートが流れてきました。

 そのツイートには、元気のないミケちゃんとペットキャリーケースの2点の写真。いつものひまわりスマイルもなくミケちゃんが、ぐったりうつむいて首を下げているのです。


 それから、約2時間半後。

「ご心配をおかけします。沢山のコメントありがとうございます。血液検査で肝機能の数値が、異常高値でした。甲状腺疾患の可能性もあり、そちらの検査結果が月曜日(8月3日)に出るとのことです。明日も来てくださいと言われました。ミケちゃん、ミケちゃんが元気になってくれるなら、何でもするからね……」とのツイートが。


 フォロワーさんたちは、騒然とします。この二つのツイートには、合わせて568件ものコメントが付きました。




 最初のツイートの十数分前に、水玉はアルファポリスでこの「ミケちゃん、おはよう!」の第1話「三毛猫はラッキーキャット」を公開したばかりでした。

 衝撃と共に、このまま連載を続けていいものかどうか、とても迷いました。




 明けて、8月。

 食事の取れないミケちゃんは点滴のために、1日2日と連続通院です。

 2日は日曜日でしたが、点滴の予約を取ることができました。

 ツイッターの動画のミケちゃんは目に力も光もなく、フォロワーさんたちの心配は募るばかりです。

 ミケちゃんへのお見舞いや励ましのコメントは、この三日間で2000件にもなりました。

  

 3日の月曜日。

 この日から、甲状腺機能亢進症への投薬が始まりました。

 正確な検査結果はまだ届いていませんでしたが、先に送られてきた速報値でミケちゃんの「甲状腺機能亢進症」に関する数値が非常に高かったからです。

 



 7歳から10歳の中年期の猫の10%が、甲状腺機能亢進症に罹っているという調査報告もあります。ミケちゃんも、当時の段階でもう8歳半。人間でいえば50歳前後で、シニア猫の領域に入っていました。


 甲状腺機能亢進症は珍しい病気ではありませんが、甲状腺ホルモンの分泌をコントロールするために生涯に渡って投薬が必要となる慢性疾患です。


 症状は、新陳代謝が活発になるので食欲は増しますが、体重は減っていきます。下痢、嘔吐や心肥大、呼吸困難になることもあります。エレルギー過剰消費のため、毛艶が悪くなったり抜け毛が目立ったりすることもあります。


 一見しただけでは活発で食欲旺盛なので、つい見落とされがちな病気ですが、定期検診の甲状腺のホルモン検査で早期発見できれば、食事療法で治療可能だそうです。




 4日になると、お薬も嫌がらず上手に飲めるミケちゃんは、流動食なら少しづつ食べられるようになってきました。


 やすらぎさんには、おかあさんの介護もあります。さらには、このパンデミック。収まらない感染拡大の影響でお店の経営など心配事が重なっていました。

 でも、ミケちゃんは大切な家族。できることはなんでもしてあげたいという思いは強くなる一方でした。


 その気持ちは、フォロワーさんたちも同じでした。

 ミケちゃんをなんとかしてあげたいと、かつての不妊手術の時のように支援の輪が広がり始めました。


 急遽きゅうきょ8月2日に、翌年のミケちゃんカレンダー(ミケちゃんと動物愛護団体への寄付金付き。これまで水玉が毎年デザインしていました)の早期予約や支援を呼びかけた丸山商店さんからは、早くも二日後の8月4日には支援金30万円が届けられました。

 そして、その数日後にはさらに30万円、翌月10日には12万円の計72万円がやすらぎさんの元に届けられました。※1


 やすらぎさんも自ら支援金を募り始め、ハンドメイド作品の売上金をミケちゃんに寄付する人たちも現れました。




 よく言われていることですが、犬の飼い主さんは「うちの子が一番」で、うちの子以外の犬種や犬全体に関しては「うちの子」より関心が幾分下がる人が多いそうです。

 それに比べて、猫の飼い主さんは「うちの子は可愛い」、そして「猫はみんな可愛い」「猫ならなんでも可愛い」となるそうです。もちろん、例外は多々あると思います。




 ひまわりスマイルのミケちゃん。猫の飼い主さんたちにとって、可愛くないはずがありません。


 虹の橋に行ってしまった猫の飼い主さん、取り分け「こうしてあげればよかった、ああしてあげればよかった」と後悔を抱えている飼い主さんは、なおさら、ミケちゃんを助けてあげたいと思いました。


 それは、やすらぎさん自身も同じでした。

 昔、ミミちゃんの前におかあさんが可愛がっていた猫のチビちゃんに適切な治療を受けさせてあげられなかった苦い思い出があったからです。

 やすらぎさんが治療内容に不信感を持ち、病院を変えた時にはすでに手遅れ。

 チビちゃんは、三日後に亡くなってしまいました。その時のチビちゃんは、今のミケちゃんと同じ歳でした。

 最後の日の朝、病院のケージの中でやすらぎさんを見ていた悲しそうな目が、ずっと脳裏に焼きついたままです。


 やすらぎさんは、月日が経った今でもチビちゃんが最初にかかった病院の前は通らないようにしています。悔やんでも悔やみきれない思いが、胸に込み上げて来るからです。


それなのに、ミケちゃんの病気に早く気がついてあげられなかったことが、今は悔やまれてなりませんでした。



※1 丸山商店からのミケちゃんへの支援は、やすらぎさんからのお申し出でこれが最後になり、水玉猫デザインのミケちゃんカレンダーもこの年限りになりました。

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