クマパン号とクマパンちゃん

 明日は、いよいよミケちゃんの不妊手術の日です。


 夜になって、治療室の前にクマの形をした車が止まりました。「クマのパン屋さん工房」の移動販売車クマパン号です。

「クマのパン屋さん工房」は、やすらぎ治療室の近くにあった焼きたてパンのお店です。実店舗以外にも、このクマパン号で各地を回ってパンやクレープの販売もしていました。

 そのオーナー夫妻がミケちゃんへの激励も兼ねて、わざわざやすらぎさんと奥さんのためにクレープを作りに来てくれたのです。


 やすらぎさんは、そのあと何年たっても、あの夜のクレープの味を忘れることができませんでした。

 今では、もう「クマのパン屋さん工房」のクレープを食べることができないだけに、尚更なおさら懐かしいのです。

 



 ***




 クマのパン屋さん工房は、2016年1月に惜しまれつつ閉店してしまいました。

 実店舗や移動販売車の他に、まわりからの勧めもあって通販を始めていた矢先でした。

 ブリオッシュメロンパン、バタークロワッサン、メープルピーカン。おいしいパンのファンは全国に広がっていました。今でも、お店の再開を望む人たちが大勢います。


 お店が閉店する時、クマのパン屋さん工房のマスコットのクマのぬいぐるみが、やすらぎ治療室に預けられました。

 そのぬいぐるみの名は、クマパンちゃん。


 クマパンちゃんは、すぐにミケちゃんの良いお友だちになりました。

 ツイッターにアップされるミケちゃんとクマパンちゃんの写真は、ミケちゃんにぬいぐるみのお友だちが増える切っ掛けにもなりました。

 ミケちゃんとクマパンちゃんの愛らしい姿に、フォロワーさんたちがキャットフードの他にぬいぐるみもプレゼントしてくれるようになったのです。

 だから、いつか「クマのパン屋さん工房」のお店が再開して、クマパンちゃんが新しいお店に戻って行っても、ミケちゃんはちっとも寂しくありません。


 クマのパン屋さん工房のポリシーは、地域のパン屋さん。子どもたちが駄菓子屋さんのように遊びに来てくれるパン屋さんでした。

 いつか、新しいお店で、焼きたてパンの匂いと子どもたちの笑い声の中で、誇らしげなクマパンちゃんに会えたら、どれだけ嬉しいことでしょう。

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