きんもくせい〜明けの三日月1

 以前、水玉猫がミケちゃんの赤ちゃん猫のために書いた物語フィクションも載せておきます。

「渡し守の唄」から「きんもくせい〜明けの三日月」




 ***




【 明けの三日月Ⅰ】


 虹の橋行きの船を待つ船着き場。

 ちいさなその子は渡し守の歌う唄を、じっと聞いていました。



  みかづき みちる

  みちると まんげつ

  まんげつ かける

  かけて 明けのみかづき 

  二十六夜のおつきさま


  ねこのいのちは ここのつ ひとつ

  月夜のように みちて かけても

  また みちる

  ねこのいのちは ここのつ ひとつ



 渡し守は、歌い終わると言いました。

「一生には、春夏秋冬があるというよ。百年の一生にも、たとえば数ヶ月、数日しかなかった一生にも春夏秋冬はあるんだよ。ひとつの命それぞれに、それぞれの春夏秋冬があるんだ。この世に生まれる前に去って行くことになった命にも、もちろん、春夏秋冬はあるんだ。わかるかい?」


 ちいさなその子は、渡し守の腕の中で、こくんとうなずきました。



 自分の目や耳や鼻では出来なかったけれど、かあさん猫のおなかの中で、かあさん猫の目や耳や鼻を通して感じた色や音や香り。

 喜びや楽しさ、驚きや優しさ。

 朝がくる気配。 夜が来る気配。 

 そして、また朝が来る気配。

 昨日とは、ちがう今日の気配。

 今日とは、ちがう明日の気配。

 金木犀きんもくせいにつぼみがついて 小さな花が咲きこぼれる気配。



 ひとつの朝からひとつの夜の間にだって、金木犀のお花のひとつひとつにだって、春夏秋冬があるのかなと、ちいさなその子は思いました。



 木の枝の葉っぱの陰に、

 小さい小さいつぼみがついて、

 小さい小さいお花が咲いて、

 そっと静かに散っていく、

 お花の中の春と夏と秋と冬……。



「かしこいこだね」渡し守が言うと、その子は、だって、かあさん猫の子だものと思いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る