第36話 music

その上杉とは、SR400を買った後で

些細な喧嘩をして、それからしばらく物別れになるのだが

それはまた、その時書こうと思う。



ハナシは単純で、上杉はSR400、それも新車を持っている僕、

楽器も出来て、曲も作れる、録音もできる。


そういう僕をバンド仲間に入れたかったらしいのだが(後で解る)。

上杉もシャイなので、それをストレートに言えなかった。


ので。


キーボードを、それも当時の・・・・ものだから結構重い。

それをSR400で運ぼう、と言う・・ヘンなウソをついたので


そんなものバイクで運べる分けないから、断った。


上杉はもともとウソついてるので、それを隠しきれずに怒った。


そんなとこらしい。



上杉は彼なりに、僕の家庭・・なんかも知っていたから

凄腕そろいのバンドに入れて、いずれ・・・・デビュー。





なんて考えていたのかもしれない。彼なりに(実際、彼らは・・・どうなったか知らないが

上杉はその後、プロになった。

スタジオ・ミュージシャンで結構有名になり、アイドルのレコードに

何枚か名前を残した。作曲・編曲である。


大隅もそうだったから、北高には、そういう才能が集まっていたのかもしれない。

なにせ、遊びたい人が集まってくる感じだった。

大学へ、いい成績で入りたい、そういう人は

東や南高校へ行った。


北高は、女の子がなぜか少なくて。入って来る子も素朴な、近所の農家の子、みたいな。


なぜかと言うと駅から遠いので、自転車だと女の子はちょっと辛い。

5kmくらいあっただろうか。



それと言うのも農業高校だったから、である。



高校が出来た頃は、まだ高速道路も無かったので

ひろーい、とても広い校庭の端っこに、誰がいるのか解らなかったらしい。


それどころか新幹線も無かったから、その用地に取られる前は

ずーっと校庭(というか作業場の畑)だったらしい。



なので。



当時のことだから、バイク通学なんて普通。


なにせ、バスなんてないし・・・・・。回りに家がないから。



僕らが通いだしてからも、回りに・・・・殆ど何も無い感じ。


高速へ向かう道には、左右におみやげの店があったりしたが

そんなところに高校生が行くイミもない。



一応、校則では125ccまで、と言うルールだったが

県立だし、のんびりしていたから


その、ひろーい敷地のあちこちにバイクを止めていた。

学校も、そんなに・・・・煩くは無かった。何せ’76年である。


都会では暴走族、なんていろいろ・・・・騒ぎになっていたが

田舎なので、多少騒音を出そうが・・・文句を言われることも無かった。

事故、とか・・・本当に暴走族になってしまったとしても

走るだけ、で・・・・箱根とか伊豆とかに行く分には

あまり、人が住んでいないのだから。



そういう事もあった(チナミに智治はルート20、に入っていたらしい。

栄三はアーリーキャッツ、だったかな?なんだか忘れた)。



だとしても、町外れの高速道路のそばを走るくらいだと

煩いかもしれないが、周りにあるのはモーテルくらい(笑)。

別に、どうと言う事も無かった。



カク言う僕は、暴走族・・・なんて、群れは嫌いだったから

興味なかった。



だいたい、あんまり大勢になるのは好きではなかった。



せいぜい、ひとりかふたり。3人くらいか。


でもまあ、クラスメート同士ならそんなに・・・・とは思う。



智治は割りと、大勢になるのが好きで・・・。



よく、家に友達を呼んで、わいわい、やっていた。

智治ん家は田舎の農家だから(農業高校に似合うのだが)。

畑がいっぱい。


納屋にスバル360があったり(お父さんのものらしい)。

このスバルは、後々全焼事故を起こして

その時のひとこと、がキッカケで

智治は僕を嫌うようになった。


たいしたことを言ったわけではなく「直せばいいじゃん」と言っただけなのだが(^^;



どういう訳か、僕の周囲にはそういうヤツが多かったようだ。

僕があんまり気を使わないから、も・・・あるようだけれども。


無神経。


かもしれない。女の子にも言われた事がある。(笑)。



人間、そのくらいでないと・・・・と、今は思う。



渡り廊下で、よく女の子がたむろっていて、僕を見ると

何か、上履きでスノコを蹴飛ばして音を立てたりした。


そんなことも良くあった。けど、まあ・・・ああいうのに関わると

メンドウだし(笑)。



だいたい、バイトで忙しいからいつも眠かった。


オンナに関わってるのは・・・ヒマな智治くらいである(笑)。


智治は、地主の息子だし、お父さんは市役所。

だから、ヒマはヒマで。KHも買ってもらったのだし。


かっこツケでガソリンスタンドでバイトはしていたが

数時間くらいだったから、ホントにガソリン代くらいだった。



僕のように、生活が掛かっているわけでもなかった。



そんなふうに、高校生活・・・と言っても、全然明るくもなんともなかったのだが。

でも、オートバイ、それと音楽があったから

それだけが心の支えだった。


恋愛・・・・と言うような、漫画にあるような

恋して、苦しくて、楽しくて・・・なんて気持はよく判らなかった。


もしかすると、漫画にしかないのかもしれないけれど。



バイクは、乗っていると集中しないとならないから

そういう気分の転換になった。それは救いだった。


何もいい事、なんて無かったのだから。

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