第24話 秋の夕暮れ

僕は、緑色のバスの後ろ姿を見送ったけど・・・。


なんとなく、そのままクラスには戻らずに

自転車に乗って。



線路際に向かった。


駅は、北高からは南西にある。


線路は真南にあるから、電車が見えるかなと思って。



自転車を飛ばした。




愛用のブリジストン・アスモは

結構速度が出て。


バイパス道路を渡り、真っ直ぐに線路を目指して。


田んぼの中の、ひろーいところに行った。



電車はそんなに頻繁には来ないから。



と、僕は少し待った。



そろそろ、秋の夕暮れが。

空が茜色に染まる。


風が少し、寒いくらい。



30分くらいはたっただろうか。




ヘッドライトを付けた電車が、ゆっくり、ゆっくり。

大岡山駅の方から、東へ向かって。




「乗ってるかな・・・・。」と、思って。



見ていたけれど、映画のように

偶然気がつくと云う事も、まあ、難しい。



北側に座っている偶然も(笑)。




オレンジとグリーンの電車は、加速して

行きすぎてしまった。







電車の中では。



「あれ?町野さんじゃない?」と、孝くん。


ボックス席の反対側に座っていた祥子ちゃんは、窓の外を見たけど

ほんの一瞬。


田んぼの畦道に、自転車の脇で立っている人が見えただけ。



窓を開ける時間も無かった。





「お見送りに来てくれたんだね。」と、孝くん。



祥子ちゃんは、微笑んだ。















僕は、電車を見送ってから


北高に戻った。



かばんも置いたままだし、教室の片付けもしていなかったから。


でも、もう5時半だ。



24HRに戻ると、もう、片付けは済んでいて

ほとんどの生徒は帰っていて。



マトーくんは、残っていて「ああ、帰ってきたか。いい子だね、あの子」


僕は頷いた。「うん。」




マトーくんは「大事にしてやんな」と。



僕は頷く。



・・・でも、お姉さんのことも大事にしてあげないと。


とは思った。




「どっから来たの?あの子」と、マトーくん。



「今井浜」と、僕が言うと、マトーくんは驚き


「あんな遠くから。よく来たなぁ。まあ、お兄ちゃんが一緒だとは言え。

これは本気だなぁ、きっと。」と、にこにこ。


「うん。そうかも」と、僕が言うと、マトーくんは


「なんか気がかりでも?」と。



僕は「うん、あの子のお姉さんと最初仲良くなって。

家に遊びに行ったんだ。そしたら、あの子が」と。



マトーくんは「そうか。それで、あんな遠くの子と知り合えたのか。」と。


しばらく考えてから


「でもさ、それはどうしようもないな。」と。



僕も「そうだね。」と。



24HRの窓には、秋の夕暮れ。


オレンジ・ヴァーミリオンからブルー・ブラックへ。


きれいな空だった。





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