第27話 希望

その頃、忘れていた音楽財団の幾つかから

手紙が来たけれど、予想通り、ほぼダメだった。


ただ、ヤマハ、カワイはそれなりに評価があった。


どちらも、似ている評価で


持田先生の評価に似ていた。



「音大に行くよりも、このままポピュラー・ミュージックの方向へ

進んだ方がいい。若いうちだから」


と言うものだった。




クラシックを学んでも無駄、と言う事だろうし

それほどの素養も無いと言うことだと僕は、勝手に判断してしまった。


ただ、ヤマハは

ポピュラーの専門学校があるので、そこに受験して

合格したら、補助金は出せると言う


いい話だった。


ただ、合格すればの話だし

何か、得意な楽器や、歌とか、作曲とか

才能が無いと合格は難しいらしい。


そんな話は、上杉くんから聞いた。



音大に行くよりも、かえって難しいかもしれないし・・・・。


何かひとつの楽器とか、習った事もなく

ただ音感と、音楽を沢山聴いているから

アレンジらしきものは出来ると言う事だけ、だったから



「行くなら作曲科かな」とか、勝手に思っていた。




丸川が言うように、ボーカリストを目指せばよかったかもしれなかったけど


少年ってそんなものだ。





「フリーターでいいや」


なんて、半分ヤケ(笑)だった。




明日の事より、今日。



そんな気持でもあった。



もう少し真面目に考えていれば・・・あるいは、と思うけど

そんなものだと思う。





「まだ一年あるし」と言う気持もあった。


その前に、高校生のうちにオートバイに乗りたかった。



バカげていると、ひとは思うかもしれないけど

好きな事をするなら、後悔はないだろう。


17歳、18歳は二度と来ないのだから。





SR400はもう発売されていたから、時々見かけることもあった。


黒い塗装に金色のストライプと、臙脂色に金色のふたつ。



どちらかと言うと黒の方が人気があったらしい。



F1レースのロータスが、JPS、と言う煙草のパッケージのデザインに似せた

この、黒と金色でカッコ良かったのは、72年だろうか。



そのイメージもあったし


1978年からのヤマハは、「スペシャル」と言う

アメリカン風のゴージャスなバイクを出していて

それが、この黒と金色が主体だったから

そのイメージもあった。



後々、750の免許を取ったとき

最初に買ったのは、このXS750スペシャルだった。



輸出仕様では、XS1100ミッドナイト・スペシャルがあって

それは本当にそのJPSロータスそのものの色あいだった。



「いつか乗ってみたい」と、そんな風に思っていて

これも後々、ヤマハで働く機会があり

その時に、会社の先輩が持っていたバイクに乗せてもらったりしたけれど。




それは、少し先の事で

この時の僕はそれを知らない。



焦りのようなものがあるだけだった。











それでも毎日、学校には行っていたし

バイトもしていた。






11月も終わりに近づいた頃、僕は音楽の授業の後に

偶然、持田先生が音楽室に残っていたので


奨学金申請の結果を言った。


先生は「おお!そうか。とりあえずオーディション一次通過って事だ。おめでとう」と


僕の思っていた答えと逆の事を言った。



「・・・・オーディション。」そうは考えていなかったから。

それなら成功だと言う事になる。



「そうだよ。専門学校だって行けるなら。チャンスだよ、がんばれ!」と。


明るい先生の声で、気が晴れた。


「そうか。僕は何を考えていたのだろう」と思う。



クラシックを習っているワケでもない僕が、音大に行けるわけもない。

ポピュラーなら、まぐれで当たるかもしれない(笑)。



その機会が、在学中にあるかもしれないから。



「先生、僕は何を練習したらいいのでしょうか」と、僕が尋ねると


先生は「そうだな。文化祭で聞いたハード・ロックは良かったな。サックスもいいけれど。

作曲と言うのは無難だな。習えるし。」と。




・・・・作曲。



途方もなかった。



「それだと、歌か作曲かな」なんて、僕は思ったりした。

第一、サックスは持っていないから練習のしようがない。




「クラシックの作曲なら教えられるけど」と、先生は

頼りになる事を言ってくれた。




「ありがとうございます!」と、言ったところで

休み時間が終わり、僕は24HRに急いで戻った。





なんとなく、希望・・・と言うよりは

まだ夢に近いものだったけど


それでも、何も無いよりは、いい。


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