第28話 有希子ちゃん

そんなある日、登校すると・・・。


廊下のところで、26HRの石神くんが僕を待っていた。



「やあ」。


石神は、あの学園祭の即席バンドでキーボードを弾いていた

有希子がいるバンドのギター。



父がデザイナーなので、どことなくそういう、芸術系の雰囲気があった。


ギターも、少年には珍しくフル・アコースティック。



勿論、ギブソンなんかではない(笑)。




それで、クロスオーバーなんかを演奏するので

割と、僕と趣味が合って。



彼らのバンドのデモテープを録りに、隣町のスタジオまで行ってあげたりした。



プリズムの「デイドリーム」とか、ああいったロック・ジャズ・クロスオーバだった。




その石神が、なにか深刻そうな顔。


彼にしては珍しい。



丸顔、黒縁めがね、いつも笑顔。

そういう奴だった。



何か、ヤバイ話かなと(笑)


僕らは屋上へ。





屋上は、もう11月なので結構寒かった。


でも、誰かに聞かれるよりはいい。




石神は「有希子のことなんだ」



????


「有希子ちゃん、どうかした?」





石神が「・・・・うん。なんだかさ、最近荒んでるみたいでさ」



おとなしそうなお嬢さん、と言う雰囲気だったから。



ちょっと意外だった。


でも、それをどうして僕に言うのだろう?




「かわいそうだな」と、僕は言った。


石神は「そうだろ?そう思うよな」



と・・・。



石神は、有希子が好きなのかもしれない。

そんなふうに僕は思った。





そういえば、以前、よく石神の家の前を自転車で通ると


石神の部屋で、有希子とふたりで

楽しそうに音楽をしていたり。そういうところを見かけたっけ。



エリック・ゲイルの真似をしたりしていた石神だった。


有希子は、リチャード・ティーみたいな弾き方で。



ミニ・キーボードを弾いていた。





「そう思うけど・・・僕にどうしてそんなことを言うの?」






石神は「実はさ・・・こないだの学園祭の時に来たベースの

なんて言ったか忘れたけど、名前。智治のバンドの」




「ああ、大隅?」と、僕は、何度かセッションした事があったから。





石神は「そう、あいつがさ・・・有希子を夜の街に引っ張ったり、

ディスコに連れて行ったり。そういう事をしてるらしくて。

なんとかしたいんだ」




石神は、割と気が弱い。



僕が、智治と大隅の両方を知っているから、そう言うのだろう。



確かに智治は、割といい加減なところがあって

一年の頃から、先輩の女子といろいろ噂があって

その都度、なんだか気まずい別れ方をしている、そういう噂があったけど。


それで、ノリちゃんとかは智治をちょっと嫌っていた。





「そうだな・・・僕も大隅をそんなによく知ってるワケじゃないんだ。

智治と同じバンドだってだけで。僕もなんどかセッションしたくらい」



石神は、黙っていた。



僕は石神もかわいそうになって「うん、智治に聞いてあげるよ。そういう事があるのか」





石神は少し明るい表情になって「ありがとう!恩にきるよ!」と。


そこで、始業のチャイムが鳴ったので、話はそこで終わった。






僕は思い出す。


清楚な、お嬢さんタイプの有希子が、どんな風に荒んだのか

想像もつかない。



クラスが別だし、僕もあんまりクラスから出なかったり。





石神は真面目なので、急いで階段を下りていった。


僕は「まあ、いいか」と、のんびり。









「ふーん。そうか。まあ、聞いてみるか」


お昼休み。ごはんの後に。



いつものように、階段下の倉庫でギターを弾いている智治を見つけて。


音で、だいたい誰が弾いているか分かる。



智治のギターは、自分で改造したもので

安物のストラトに、ハムバッカーを付けたものだったから

すぐに分かった。


今だと、エディ・ヴァンヘイレンモデルみたいな、そんな感じ。



智治は気のいい奴だから、いい加減だけど

そういう所で意地悪なんかはしない。



「悪い、頼むよ」と、僕。




智治は「なんで?タマが?」



僕は「そう。僕もね。石神に頼まれたんだ。有希子ちゃんが荒んでるんならさ。

かわいそうだし」





智治は少し考えて「でもさ、女って変わるから。自分でそうなりたいのかもね」




僕は、なんとなく、稔くんのガールフレンドたちを連想した。




見た目、清楚なお嬢さんなんだけど、どこかしら

尖がった表情をしていて。



その、やりきれなさが暴発しそうな。




有希子ちゃんも、あんなふうなんだろうか。




そう思うと、なーんとなく校内で遭いたくないな。見たくないな。


そんな風にも思った。







そのことを、とりあえず石神には伝えた。



そのまま。



その方がいいと思ったし。






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