第12話 才能



「そうできたらいいなぁ。」と、僕が言うと


そうしなよ、と

渉さん、ナオミさん。


「はい、僕、苦学生なんです、ハイ。

バイトしながら学校に通ってます」と、明るく言った。


渉さんは「なーるほど。でもさ、お金はなんとでもなるよ。

芸術系だとね、『文化財団』って所で奨学金貰えるよ。

才能が認められばね。」と、にっこり。


ナオミさんは「そう。私もね、それだもの。大学だけど。」



「それは知りませんでした。でも、才能はないなー。ははは。」と

笑うと


渉さんは「あれだけ弾ければ大丈夫だよ。音楽科とかだったら。

それに・・・。」


「それに?」



「演劇科だと、とりあえず入れちゃうね。演劇って作り上げるものだから。

最初から才能ある人っていないもの。」と、渉さん。


ナオミさんも「まあ、私もそうかもしれないわ」と、笑う。



渉さんは「ダンスは別だよ。」と。



芸術・・・・。

考えた事もなかった。


「ありがとうございます!なんか、希望が出てきた。」と、僕は


礼を言って、演劇科を後にした。



「そろそろ、お昼かな?」


12時少し過ぎ。




「アメニティのみんなは、お昼に来てるかな?」



学食は、それぞれの棟にあるので・・・。

探すのは大変(笑)


演劇科にはいないだろうな。



音楽科。4階の、眺めのいい辺りが

スカイレストランみたいになっている。


山の上だから、遠くまで良く見えて。


電車の線路、遠くかすんだ山脈、富士山。


よく見える。



きょうは夏休みだから・・・。ひと気は殆ど無い。



窓辺に、靖子さんを見掛けた。


でも、なにか物思いに耽っている様子なので

声を掛けずに。


「じゃ、みんなは美大のとこか」と。


けっこう広い階段を下りていく。


壁は、コンクリートに塗装で

至ってシンプル。


それがかえって美しく見える。



広い大学だから、歩くだけでも結構な運動になる。



最初に入ってきた、美大の学食に行った。


うららさんと陽子さんが居て

僕を見つけて。


「こっち、こっち!」と、うららさんは

手をあげて。


学生の姿は少ない。



「どう?面白かった?音楽科」と、うららさん。


「はい!セッションしちゃいました。そしたら演劇科に呼ばれて。

渉さんに、ミュージカルやろうよ、なんて話をして。」



うららさんは「面白そうね、あの子。キミ、音楽系っぽいものね。」と。



僕は「付属高校へ転校すれば?って。言われました。」と言うと


陽子さんも「いいアイデアね。」と。


僕は「芸術財団と言う所で、奨学金が借りられるかもしれない、と言う

お話を聞いて。ちょっと希望が沸いてきちゃった。」と、笑う。



うららさんは「音楽だと、あるわね、そう言えば。

音楽ってお金になりやすいし。」と。



「どういう事ですか?」



うららさんは「うん、例えばキミが、歌手になったり、作曲家になったり。

そういう事もあるし。

絵よりは簡単に売れるもの。」




「なるほど・・・。」



「うちの会社でもね。音楽科の学生に投資しているのは

そういう可能性もあるから、だったりもして。」




「なるほど・・・・。」



「なるほど、ばっかりね」(笑)



「あ、いえいえ。なるほど、ザ、ワールド!じゃないものね」と

僕は笑った。



うららさんは「でも、転校できればね、ホント。

私達の心配も無くなる。



「心配って?なんですか?」




「陽子ちゃんのカレシがどっか行っちゃうって事。」


と、うららさんは笑った。



陽子さんは、ちょっと恥かしそうに俯く。




・・・でも、僕が思うには。

例えば理佳さんたちのような友達が沢山出来て


その中のひとりと親密になったとしても

それもいい事なんじゃないかな?なんて風にも思う。


陽子さんにも、そういう可能性がないとは言えない。



しばらく過ごしてみて、結果としてしあわせなカタチが

一番無理がないんじゃないかなぁ、なんて思ったりもした。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る