第21話 かわいい恋人

中学校の制服を着た祥子ちゃんは、去年より大人になったみたい。

そう思う。


秋服なのかな、白いブラウスに

襟が紺。

白いストライプが二本、まわりにあって。

角のところに星の形のステッチが入っていて。



「可愛くなったね、ずっと」



祥子ちゃんは、ちょっとはにかんだ笑顔で


「ありがとうございます」と。


さらっとした髪は、左右で纏められていて

前髪は、右に流していた。

ちょっと、大人っぽい感じ。


体育館から、僕らは歩きながら北校舎の方へ。



「今の祥子なら、恋人にできそうでしょ?」と、孝くん。



「お兄ちゃん!」と、祥子ちゃんはこぶしを振る。


ちょっと、頬が赤い。


「うん、ほんと。女らしくなった。」と僕も言った。


「孝くんも男らしいね・・・制服でなくていいの?」と僕が聞くと


「それだと、家出カップルと間違えられるし」と、孝くん。



・・・・なーるほど。





あの、大石くんがパンツを脱いだ(笑)玄関から

僕らは入る。


今日は土足でいい。



「あ、スリッパ持ってこなかった」と、祥子ちゃんが言うので



「きょうはだいじょうぶ」と、言うと



「よかった。でも、汚れちゃう」と、言って

靴の裏を気にしていたけど


きょうは晴れでよかった。



南校舎の1階も、いろいろ展示があったり、模擬店があったり。


喫茶店。


「いらっしゃいませ」と、エプロンをしているのは


守君の彼女、ともみちゃん。


小柄でころころ、よく笑う子。

ちゃんこ鍋屋さんのバイトで一緒になってるから、気心は知れてる。



「タマちゃんのお友達?かわいいねー」と。ともみ。



「はじめまして」と、ご挨拶。


ともみちゃんは「中学生?この辺りじゃないねー。タマちゃんのガールフレンドかー。

お茶のんでいかない?」と。


祥子ちゃんは「はい」と。


教室に暖簾が掛かってて、なんか、ちぐはぐだけど

それも、学園祭らしくていいなぁ、と、僕は思う。




ともみちゃんはふたりを連れて「お客様、3名でーす」と。



「どこでもいいのよ。好きなところに掛けてね」と。

やさしいお姉さん。



「はい・・じゃ、あの、窓のトコ」と、祥子ちゃんは

とことこ。



窓際の前の方、机がくっつけてあって

ビニールのテーブルクロスを掛けた4人掛け。


なんか、いつもお昼ごはんを女子が食べてる感じだけど(笑)。




風さわやかな秋の日。

中庭のみどりが美しい。

芝生が綺麗に手入れされていて。



音楽は、イージー・リスニング。


ジョニー・ピアソン・オーケストラの「朝もやの渚」。

いいLPだ。


カセットに録音して、ラジカセで流しているけど

なかなかいい音だ。


ラジカセを見ると、アイワのTPR-808だった。


4個スピーカーがついている、マトリックス・サラウンドと今なら言われる

広がるサウンドで人気だった。



銀色のボディで、教卓の上に置かれていて。


AC100Vのコードがラジカセから直接伸びていて。


このラジカセは、トランスが内蔵型なのだ。




「いらっしゃいませ、ご注文はいかがですか?」と。


エプロン姿の(当時はメイド服なんていう流行はまだ無かった)。


色白、ぽっちゃりの女の子は、サトミちゃん。

剣道部で、同じ剣道部のオノくんと仲がいい。


よく、廊下でいろいろ話をしている。




孝くんは「俺はコーヒー。アイスがいいなー。」


祥子ちゃんは「えっと・・レモンティをお願いします」


僕もアイスコーヒーを頼んだ。



学園祭だから、いろんな音が聞こえる。


エレキギターの音。

バンドの音。



トランペットの音。ブラスバンドかな。



サッカー部だろうか、ボールをキックする音。


野球かな、金属バットの響き。



「すごく広いんですね」と、祥子ちゃん。



「そう、ここは元は農業高校だったらしいんだけど。それで」と、僕。



「へー。そうなんだ。じゃ、この辺は畑だった?」と、孝くん。


「牛小屋だったかもしれないね」と、僕が言うと


「えー、じゃ、牛のウンコが埋まってたりするワケ?」と孝くんがいうので


「お兄ちゃん、きたない!」と、祥子ちゃん。



ハハハ、とみんな笑う。




ステレオの音も聞こえる。


結構大きな音で。



「ディスコかな」と、僕が言う。


24HRは、去年11HRだった連中がほとんどなので

また、楽なディスコを選んだ(笑)。



また、去年みたいにハルクが怒るのかどうかは知らない。




「ディスコって行ったことないです」と、祥子ちゃん。


「中学生だもの」と、孝くん。



「海辺にはよくあるけど。夏だけのディスコとか・・・祥子ちゃんの町には

無さそうね」と、僕。




「はい。お隣の町にはあるそうです」と。


お隣は温泉街だから、ありそうだけど。



「後で行って見ようか」と、僕が言うと


「はい!踊ってみたいな」と、祥子ちゃんはアクティブ。


「俺も!」と、孝くん。



「陽子さん、呼べばよかったかな」と僕が言うと


孝くんは「忙しいから来ないと思うなー。家にも帰ってこないもん」と。



孝くんなりに淋しいのかな、なんて思ったりもした。

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