第18話 栄三くん



「・・・でも、なんとなく、普通のサラリーマンにはなりたくないな」


とは、思っていた。


不満が顔に出ていて、不健康そうな。

そういう大人は、多くがそうだったから、かもしれなかった。


単に、運動不足なだけだ、と後で分かるのだけど(笑)

それは、17歳の少年には知る由もない。


サラリーマンでも、そうでない人もいるという事も、後で知る。





夏休みの間に、幾度か休みがあったので

あの大学に行こうかとも思ったが

それも面倒だったし、また、ヘンな揉め事に関わるのは

ご免である。




スズキは、この頃

2サイクルのバイクにリードバルブ吸入を採用した。

パワーリードバルブ、と名づけられたそれは

単純なクランクケース吸入なので、エンジンが好きなだけ

吸えて。

吹き返しだけリードで抑える。


波動なので、上手く干渉を使うと過給されるから

トルクが増える。


ガスが沢山入るから。


最初に出たのがマメタン50で、形式はOR50。

と言っても、宗教団体のおっさんではなく(まだ出ていない)。


アメリカン風の面白いデザインで、ウィリーがしやすい面白いバイクだった。



新聞配達で友達になった子が持ってて、ちょっと乗せて貰ったけど


僕のGRは改造車なので、全然トルクは違って

あんまり早いとは思わなかった。





このエンジンで、RG250がデビューした。


最初は、スポークホイールで。後々キャストホイールが出て。


その最初の型は、ずいぶん「欲しいな」と思った。


小さくて軽い。126kgしかない。

125ccみたいだった。




随分迷ったけど、値段がそんなにSRと変わらないし


ノリちゃんが「ツーリングなら4サイクルだよ」と言う

アドバイスで。


却下(笑)。




ノリちゃんはツーリングが好きだ。


僕は、それほどでもないけど。




あんまり「好き」が無いほうだったのは

母が干渉するから、もある。



何か「好き」と言うと

ケチをつけたがるので、言わないようにしていた。



兄は、よく喧嘩をしていたが


僕は、面倒なので最初から避けていた(笑)。




そういう性格もあって、あれ以降アメニティ青池には近づかなかった(笑)。





いつも、音楽を聴いていたので

あんまり、感情に走る事もなく過ごしていたのもあったりする。



ラリー・カールトンの「ルーム335」の、どちらかと言うと

キーボードのソロが好きで。


後にミュージシャンになる級友の上杉君と、よくその話をして盛り上がった。



僕は、ギターを弾いてはいたけれど

そんなにギターって、上手でもなかった。


なにか、他の楽器でいいから、上手にアドリブをして

音楽と遊びたい。


そう思っていた。



「サックスがいいけど、高いしなー。」


と、質屋さんに飾ってあるサックスを見て、ほしいなぁ、と思ったり。


でも、吹く場所もないし(笑)。



河原くらいだけど、結構サックスって音が大きいから

寝てる人にぶっ飛ばされそうだったし。





一緒に教習所に行った栄三は、GS400を買って

乗っていたけど

これも、スポークホイールの初期型、ガソリンタンクが

単色で、カッコイイ。


赤だった。



この頃は、免許証にカタカナの表記があって


栄三は ワカハヤエイサン、で。


僕は  マチノタマ 。


お互いにそんな事で大笑いした記憶がある。



けど・・・・。



栄三は、軽い事故を起こし

相手が、煩い人で


警察を呼ばれてしまって。


ちょっとした、出会い頭事故で

怪我はなかったのだけど。



それで・・・・・。



栄三は免許を学校に預ける事になってしまった。




ナケナシの金をはたいてかったGS400は、知り合いに売ったが

「卒業後に買い戻す」と言う約束で。



本当に、卒業の後買い戻し・・・。


今も持っている。


オマケに、スズキに入社して

今も社員である。




そういう、なんというか、楽しい奴らが

僕の友達だ。



因みに栄三は、煙草屋の息子だが

煙草は吸わない。そこは幸いだった。




そう、稔と同じ町内である。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る