第35話 breezin'

[ジョージ・ベンソン ブリージン]


その頃だったかな?もう少し前だったかな。


アルバイトして買ったレコード。


なぜか夜遅くまで開いているレコード店に、中学のクラスメートだった

柴田と一緒に。


この柴田はラジオが好きで、音楽も好き。


それで、夜遅くにラジオ番組の「クロスオーバー・イレブン」で聴いたと言って

いろんな曲をカセットで聞かせてくれて。


僕はお金はあるので、それを買って・・テープを交換したり。


僕はまだレコード・プレーヤーを持っていなくて。

前述の理由。そんなものを置いておくと


父に取り上げられて、質屋に持っていかれてしまう。

元気なうちの父は、そんな感じだったから



レコードは買っても、友達の家でテープに取らせてもらって

それを聞いていた。



今でもそうだけど、レコードって減るので

勿体無くて聞けなくて。

普段はテープで聞くのが、割りと普通だったりする。



市立高校の前にあるレコード屋さん、結構大きな店で

そこのレコード棚を見ていって。



お店によって置いてあるレコードが違うから

注文して買うのがメンドウだったし。ヒマはあるから

いろんな店を回って・・・・。



どこの店に行けば、どんなレコードがあるか、が

なんとなく解っていた。


’77年辺りは、そういう・・・洋楽ジャズ・フュージョンが

クロスオーバーと言われて。


大ヒット(主に日本で)した時期。


NHK-FMでも、盛んに掛かっていて。


柴田は、特別音楽マニアでもないし楽器も弾かないが

なんとなく、自然に親しんでいて。


この日、なぜか柴田と僕は自転車で、夜の7時くらいだったかな。


僕は、ブリジストン・アスモ。


柴田は、小学校の頃買ってもらった

セミドロップのスポーツ。定番だった。



そういうヤツで、サラリーマンの息子なのだからか

回りと同じ、が基本の。


でも、音楽は凝っていた。



「これがいい」と、僕がジョージ・ベンソンの

ベージュのジャケットを持ち上げた。



Breezin’と、筆記体、水色で書かれていて。

今見るとちょっと恥かしい(笑)くらいまっすぐだった。


ベンソンさんがまっすぐ、こっちを見て写っている。



柴田に「どれがいい?」と聞くと


その言い方が気に障ったようで「自分が買うんだから」と言った。



割りと、そういう・・・尖がったヤツで

小学生の頃はいじめっ子だったりする。



イジメといっても、陰気なものではなくて。

力で抑えたり、そういう感じだったけど。





まあ、僕は気にせずにその「ブリージン」を買った。


柴田の部屋でカセットに録音してもらって。


家のラジカセで聞く。





柴田は僕と高校が違うので、昼は合わない。



それでかな、時々・・・こうしてレコード買いに行ったりした。





北高では、音楽仲間の上杉博に


「ブリージン、入ったよ」と知らせると



上杉は「じゃ、帰りよってけよ」と。



博は、短髪、瓜実顔、小柄、色白、ギャグが好きで

絵が上手かった。


そして、ギターと音楽が得意。




その日の午後、上杉の家に行って

ブリージンを掛けた。


上杉は、立てかけてあったストラト(もちろん、フェンダーなんかではない)。


を持って、あのイントロの



フィル・アップチャーチが弾くサイド・ギターを

スライドもそのままにさらりと弾いた。


僕は、あのフルートの音がマネしたかったけど

その時持ってなかったのでファイフを吹いたりした。


1音スライドする装飾。フルートのメロディが綺麗。




上杉は「こんなのカンタンさ」と、笑った。



でも、曲が進んで


ジョージ・ベンソンのリードギターになると


さすがにオクターブでマネするのは難しいらしく、サイドに徹していた。



「リード、どうすんだ」と僕が言うと



上杉は「オマエが弾けよ」と言ったけど

そこにギターないし(^^)。




ふたりで笑いあった。



腕達者の上杉は、高校を出てから

スタジオ・ミュージシャンになって。


その内、アイドルのレコードとかに

曲を書いたりしていた。



僕らの北高は、音楽が好きなやつが多かったのか・・・

大隅もそういえばプロに行ったし。


なぜか、軽音ではなくて

趣味でやっているやつばっかりだった(上杉もテニス部である。

真面目にやってはいなかったが)。


そこら辺が面白い。

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