【end】8月23日―――僕たちの夏。


「・・・・!・・ま、もと・・・・!・・・・・・・・・・・山本!」








遠くから、誰かの声がする。



僕は、うっすらと目を開けた。



少し手を動かすと、モフモフとした触り心地がした・・・布団か?




「山本っ!」


僕は、頭を少し動かして声を主を探した。


そこには、あの8月の日、一緒に肝試しをした友人がいた。




「お前、奇跡的に助かったんだってよ!・・・本当、心配させんなって。」

「・・・いま、い・・・つ?」

「8月23日だよ。寝て4日も経ってる。」




そう安心した友人の声を聞いた時、僕の頭は佐藤のことでいっぱいだった。




「助けて、くれた・・・・・・さとう、が・・・」




「え、山本、今何か言ったか?」

「いや・・・・・・なんでも、ない。」


僕は頭を横に振り、そのまま再度眠りについた。








僕はあの日、確かに屋上から落ちた。

ただ、幸いグラウンドには人がいたらしく、すぐに僕は病院に搬送されたらしい。

そして僕は大手術の後、数日間の眠りについて・・・今に至るらしい。


みんなは奇跡だと言う。


それでも僕は、全て佐藤が僕にしてくれた最後の救済だと思った。








『君も自由になって。』








「自由になるよ・・・ありがとう、佐藤。」




僕は空の上で、自由に生きている佐藤に声を掛けた。

彼女は空の上で自由に生きているのだろうか。

きっと・・・生きているに決まってる。




彼女は、純粋だ。

彼女は、無垢だ。

そして彼女は・・・何事も自分らしくありたいと願っていた。


それでも、周りのイメージには抗えず、消えてしまった。




僕は、まだ空の上には行けない。

自分を消すこともできない。

それでも僕は、彼女と違った場所で、自由に生きようと思う。




そんな僕達の夏は、静かに幕を閉じた。




そして、彼女のいない秋が始まる。








           『助けての言い方を知らない君。』


                  終

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助けての言い方を知らない君。 キコリ @liberty_kikori

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