8月19日②―――君が「助けて」と言わないなら。


『!』


彼女は、僕の言葉に驚いたようだった。


『山本くんはダメ。山本くんは、まだ好きなことを見つけて、それに向けて頑張れる力がある。』


「誰が分かるんだよ、それ。」


僕は強めに反抗した。


「君に教えてもらったんだ。人はどんなに変わりたいと思っていても、周りがそれに気づいてくれなきゃ変われない。ずっと縛られるままだ。それを佐藤も僕も感じたはずだ。」


『山本くん・・・』


「君だけ逃げるのはズルい!・・・あの夏の日、一緒にここで出会った日、僕と君は一緒に消えればよかったんだ。」


僕は彼女のことを考えず、ただ自分の言いたいことを言いたいだけ言った。

それはもう八つ当たりにも程があるぐらいに。

こんなに自分の言葉で意見を人にぶつけたことは、今まで一度もなかった。


『山本くんは、もっとこの世界で自由にできるよ。』


彼女は僕にそう言った。


『私の代わりに、もっと自由にこれからを生きて欲しいのに。』


「もう僕は、楽しく生きられた。これからなんて、ただ進学して、ただ学校生活を過ごして、ただ就職して、ただ死ぬのを待つだけだ。」



もう、佐藤はここにはいない。

それでも彼女の幻影を見ながら、僕は必死に自分の思いを伝えた。

それは止まることを知らない。




僕は、屋上の柵を越えた。




『山本くん。』




ふいに、彼女の声が聞こえた。





『・・・ありがとう。』





僕はフッと笑った。

この世界ともおさらばだ。

「さぁ、次は僕が消える番だよ。」








そして―――僕の身体は、静かに・・・音もなく逆さまに落ちていった。

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