8月8日―――矛盾と、混沌と。


僕が、彼女に関する「気づき」をしてから数日後。



この日、僕は久しぶりに外へ出た。





―――彼女に関する、学校の説明を聞く為だ。








先生方との面談から、僕はやっと彼女との約束を意識し始めていた。




【①私は今月中に死にます。】

【②死んだ後、本当の私を見つけろ。】




初めは、全く信じなかった。

…というか、訳が分からなかった。




それでも、僕は彼女に対する「違和感」に気づいた。




もしかしたら、「本当の彼女」を見つけることは、義務ではないのかもしれない。



それでも………僕の感じた、違和感を、もっと突き詰めたくなった。





―――「本当の彼女」を、僕は見つけたい。











学校は、夏の暑さで煮え切っていた。

生徒は自分の教室に登校だったので、僕も自分の教室へ入る。

―――もちろん、空気はとてつもなく重い。




「クラスが1人欠けた今、こんな形で登校するのは、嫌だったかもしれない。」




数日前、僕の家に来た担任は、クラスの全員に語り掛けるように言った。

その言葉の後、どこからか鼻をすする音が聞こえた。

クラス全員、と言わなかった所が引っかかった…間違いではないけれど。





僕は窓からグラウンドの方を見てみた。


佐藤は、この教室よりも上から、下へ落ちた。




…佐藤は、どう思って飛んだのだろう。

…何を感じて落ちていたのだろう。



彼女に、そう聞いてみたくなった。

…もういないけれど。





彼女の告別式等は、親族のみで行う予定になっており、近くの葬祭場で静かに執り行われるみたいだ。僕達生徒は、参加しないことに決定したらしい。

「みんな、佐藤にお別れを言いたいとは思う。ただ、これは親族の方が決定したことだ。くれぐれも、個人で行かないように。」


担任の言葉は、どこか冷たく、そして寂しささえ感じられた。








「おーい、山本!」


HRが終わった後、僕は友人に呼ばれた。


「どうした?」

「お前さ…佐藤の告別式、出る?」

「え!?」


突然の発言に仰天して、僕は持っていたスマホを落としそうになった。


「どうしてだよ」

「いや、担任の話聞きながらお前を顔を見たら、お前は「それでも俺は行くわ」って顔をしていたように見えてさ。」


友人は、僕の反応を見ながら続ける。

「お前さ、佐藤の事件以来、俺との誘い全部断ってるじゃねぇか。ふさぎ込む程、佐藤の事件がお前にとって一大事だったんだろ?」

「…今の時期、フラフラして遊んでたら、人情がない人みたいだろ?」


僕は、かろうじて頭から出た言葉を口にした。苦し紛れなのは自分が一番よく分かっている。


「そうか。まぁ、山本がそれでいいなら。」

友人は、納得していなさそうな言葉を述べ、僕の傍を離れた。

「それじゃぁまた、新学期会おうぜ。俺は勉強があるからさ。」

「おう、またな。」


僕達はあっさりと別れて、それぞれの岐路についた。




「ごめんな。」


なぜか無性に、友人に謝りたくなった。



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