助けての言い方を知らない君。

キコリ

特別な夏のはじまり。

8月1日―――この日、僕は君と出会った。


8月1日。夜22時。



僕は、自分の学校に来ていた。


………友人と、学校で肝試しをするために。


「おいおい、本当に入るのかよ?」

歩きながら、僕は側にいる友人に聞いてみる。

「いいじゃん。夏休みは肝試しが主流だぞ。もしかしてお前、ビビってる?」

「いやいや、そういう訳じゃなくてさ…」

「山本はそういうビビりな癖があるからなぁ…やっぱり肝試しは、男だけでギャーギャーやるもんだろ。」


…いや、肝試しは男女でやるもんだろ。


僕は恐怖を覚えながらも、それだけ心の中でツッコミを入れることができた。








―――高3の夏。受験期。進路選択の最終決定の時期。

世間では、僕らを「受験生」と称して、重厚に扱ってくれていた。

普通なら、勉強に励まなければいけない時期だ。


ただ、僕と友人は違った。

自称進学校に入りながらも、クラス内では「進路が決まっていない組」の中にいて、毎日を、なんとなくやり過ごしていた。



「俺達さ、学校で肝試しでもやって、夏休み最後の思い出にしよう。」


そう誘われたのは、つい2日前のことだ。

もし、このままクラスの雰囲気や先生の圧力に負けて、進路選択しなければいけないのなら、とことんハメを外そう―――そう提案してきた友人に、僕は、自然と頷いてしまったのだ。





そして、今に至る。




僕達は、恐る恐る学校の昇降口へ向かい、そこで大人がいないか見回した。

「大丈夫だ。今日は学校も早く終わったんだし、先生も帰ってるだろ。」

友人は僕に懐中電灯を渡した。


「今からお互い学校内を1周しよう。俺は北棟へ行くから、山本は南棟から。そしてここに再集合しよう。」

「了解。」

僕は腹をくくった。ここは誰もいない学校だ。お化けとかは信じていない…大丈夫!

「なるべく遅く戻ってこようぜ。その方が楽しいだろ?」


僕達は、お互い懐中電灯を点けた。道筋が表れたみたいだ。


「それじゃ、肝試しスタートっ!」

「おうっ!」


僕達は、お互い別々の道へ進んだ。








――――それが、君と出会う10分程前の話だ。



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