8月2日―――佐藤は僕にお願いをした。
―――話したいことがあるから、ちょっと来て欲しい。
…という佐藤のお願いで、僕達はコンビニの近くにある公園へ来た。
僕はアイスを口にしながら、佐藤とベンチに座った。
女子とこうして2人で話すのは、18年生きてきて初めてだ。
その「初めて」が、まさか学校の先頭に立つ生徒会長で、クラスの毒舌キャラで、今まで一度も絡んだことのない人になるとは、思いもよらなかった。
「それで…どうしたの?」
僕は佐藤の顔色を伺いながら尋ねた。
佐藤はコンビニで会った時から、考え込むような表情をしていて、話しかけにくいオーラを身にまとっていた。
「えっと、佐藤…?」
「山本。ちょっと黙れ。うるさい。さっきから顔色見ているのウザい。」
「は……はぁ。」
僕は佐藤の毒舌に怯んだ。佐藤は今、僕の中の「怒らせたくない人ランキング」で堂々のNo.1に君臨している。
「山本は、どうしてあの日、学校にいたの?」
少しして、彼女は僕に聞いてきた。
「肝試しの為に。」
「肝試し…? そんなことしたら、後で生徒指導ものじゃない。」
「それは佐藤もだろ。」
…忍び込んだのはお互い一緒だ。
「遊びで学校入るのと、消える為に学校行くのは訳が違うわよ。」
「重大さは別物でも、忍び込んだことに変わりはないだろ。」
「……」
俺の圧力に押されてか、佐藤は少し黙った…いや、正しくは「反撃する言葉」を考えていたのか…。
「…私は消えたいの。」
佐藤は、あの日の夜と同じことを言った。
「…君は死にたがり屋か?」
「それは違う。」
「過去を消す為に飛び降りようとしたのは、それと同じことだろ。」
「違う。」
そこから、いくらか僕は彼女に質問したが、返ってきたのは全て「違う。」という言葉だった。
「山本。」
佐藤は僕に言った。「1つ、お願いがある。」
「…自殺の手助けなんかしねぇぞ。」
「だから、私は死にたいんじゃないってば。2つ、あることをお願いしたいんだ。」
佐藤はそう言うと、僕に1つの白い封筒を渡してきた。
「この内容を、山本には知って欲しい。」
僕は、その封筒を佐藤からもらうと、紙に書かれた内容を見た。
…その内容がこれだ。
【①私は今月中に死にます。】
【②死んだ後、本当の私を見つけろ。】
「………は?」
僕は、この2行を何度も何度も読んだ。
…佐藤が、死ぬ?
「お、お前。やっぱり死にたがりじゃねぇか。」
僕は彼女に封筒を返した。縁起が悪い。
「冗談よせって。」
「冗談じゃない。これは確定なの。」
彼女は真剣な表情で、その封筒を僕の方へ押し出した。
「今の時点では、①を信じなくてもいい。とにかく、②をお願いしたいの。」
僕は佐藤の剣幕にやられて、その封筒を再度受け取ってしまった。
―――【②死んだ後、本当の私を見つけろ。】
「本当の君は、今ここで僕と話している佐藤自身じゃないか。」
「はぁ~~~。あのね、そういう意味じゃないの。」
佐藤は、そこから一気に話を進めて、僕にとあるお願いをしてきた。
至極簡単に言えば、「佐藤が死んだ後、僕は本当の佐藤を見つけなければいけない。」ということだ。
「なんで僕なんだよ。」
「山本は、私が屋上で消えようとしている時を見た、唯一の人だからよ。」
佐藤はベンチから立ち上がると、鞄を手にした。
「とりあえず、私の用事は済んだから帰る。このことは、絶対に喋ることがないように。喋ったら殺す。」
「僕を殺しても、何かが出てくる訳じゃないけど。まぁ、分かった。」
佐藤は僕を呆れたように見た。「その余計なツッコミがいらないんだけどね。」
そこから僕達は、またお互いの帰路へとついた。
佐藤が死んだのは、そこから3日後のことだった。
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