8月13日―――離れた場所にあった「鍵」。


佐藤の友人と名乗る方と電話してから数日後。


僕は、彼女が残した「とある住所」の近くに来ている。




『次は~○○駅、○○駅です。お出口は左側です。The next station is…』




流暢な日本語が流れた後、カタカナ英語で紹介された駅に、僕は降りた。

閑静な住宅街があるこの場所に、僕は来たことがなかった。

「…え、もうこんな時間?」

僕はスマホを見た。僕の住む場所からここまで1時間半程掛かったようだ。


…こんな遠くの場所を、彼女はなぜ言い残したのだろうか。








僕は、彼女の言い残した住所へ向かった。

町田さんが言うには、そこには家があり、レンガ調の壁ですぐに見つかるらしい。

なるべく早く見つかればいいのだが…。


僕は時計を見た。お昼時に近い時間に家を出てしまったばかりに、もう時刻は午後2時を周っている。

ここからさらに暑さが厳しくなってくるので、なるべく熱中症になるのは避けたい。


少し焦りながら、僕は歩くスピードを上げた。




「ここだ…!」

駅から徒歩30分程経過。

まっすぐに歩いて到着した住宅街に、その家はあった。


綺麗なレンガ調の壁の周りには、様々な色のあさがおが植えられていた。

家と家の間はレンガで仕切ってあり、インターホンの隣には表札があった。


「―――!」


僕は、その表札を見てピンときた。

そこには、ローマ字で「Sato」と書かれてあった。

…なんとなく彼女との繋がりがありそうなのは感じ取れた。




「…あの。どなたですか?」


表札を見ながらボーっとしていた僕に、誰かが声を掛けた。

僕はあたりを見渡した。そこには―――買い物帰りだろうか―――重そうなエコバッグを下げた女の人が、疑いの目で僕を見ていた。


「ここ、私の家ですが。」

「えっ、あ、すみません…」


僕はすぐに表札から離れた。ただ、その人からの視線は鋭い。


「…不審者なら、すぐ呼びますけど。」

「いやいや、不審者ではないです!」

僕は慌てて手を横に振った。


「ちょっと宝探し的なもので…」

「宝探し…?」

「いや、まぁ…そんな感じです。」




どう言うのが正解なんだ、これ…。


僕は混乱した頭を抱えながらも、意を決して言った。




「亡くなった友人が残したメモに、ここの住所が書かれてあったんです。」


「え?」


「佐藤、という僕の友人が、ここの住所を言い残していたんです。」


「あ…まさか……あの子の?!!!」


女の人は、明らかにハッとした表情をして、僕を見た。

「と、とりあえず家の中に入って下さい。」

「分かりました…。」


僕は、女の人に続いて家の敷地内に足を踏み入れた。








「先程は、本当にすみませんでした。」


僕は、家の客間に通された。

女の人は、さっきとは打って変わって僕に丁寧に謝罪をしてくる。


「いえ、僕の方こそ突然すみません。」

「間違っていたらすみませんが…あなたの名前は、山本、と言いますか?」

僕は、大きく頷いた。

「はい。山本と申します。」


女の人は、「やっぱり…」と小さく呟くと、僕の目を見てハッキリと言った。




「夏に亡くなったあの子は、私の従妹です。」




「従妹………ですか?」

僕は、女の人から発せられた一言に驚愕するしかなかった。

「はい。」

女の人は、そのまま続けた。「あの子とは、10歳離れているんです。」

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