8月14日―――日記。


佐藤の従妹の方と会った翌日。



「…暑いな。」



僕は、真夏の日差しを一身に受けながら、目的地までズンズン歩いていた。


その間、僕は彼女の手紙の内容を思い出す。





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山本くん。


私は信じているから。

沢山の思い出が詰まっている場所に、山本くんが

しっかり行ってくれることを。

のんびりしたい夏休みだと思う。

言いたいこともあるとは思うけど、残念ながら、私はもういません!笑

えらそうなこと言っちゃってごめんね。よろしく!


                          佐藤より。

場所「○○県△△△市…」


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初め、僕はこの手紙を見て違和感を覚えた。

改行の位置がおかしいし、若干文章の流れもバラバラのように見える。

…それでも、彼女の掛けた謎は、簡単に解くことができる。

僕は、現代の女子高生が多用している「縦読み」だと分かった。


「私⇒沢⇒し⇒の⇒言⇒え」


繋げると、「わたしのいえ」となる。


つまり―――僕は今、佐藤の家に向かっている。








彼女の家は、とても大きな家だった。

前に行ったレンガ造りの家も凄かったが、彼女の家も劣らずに綺麗で荘厳だった。

同級生の家がこんなに大きいと、萎縮してしまいそうだ。


僕は、震える手でインターホンを押した。


緊張している今とは裏腹に、その音はどこか軽快で明るかった。

待つ間もなく、女の人の声がする。



『はい、佐藤です。』

「突然すみません。佐藤さんの学校の友人の山本と申します。」

『…山本、さんですか?」

「はい。」



女の人は、少し焦ったような声で続けた。

「玄関を開けるので、少し待っていて下さい!」



女の人は、やはり彼女に似ていた…いや、彼女が女の人に似ているのか。

「初めまして。来てくれてありがとう。あの子の母でございます。」

僕は、女の人に合わせて礼をした。


「ここに来ることは、あの子から聞いていました。」

「!…そうですか。」


僕は、またハッとした。

僕の行く場所は、流れに沿って一つの線になっている。

―――僕の行く道を、作って繋げてくれている。



そして、それは最後の最後まで続いているだろう。



「娘は、とても元気な子でした。」

彼女のお母さんは、自分の娘の写真を眺めながら呟いた。

その様子は、見ているだけで心が絞められそうだ。


僕は、娘を思う母の顔を見ることができず、思わず俯いた。

彼女のお母さんは、そのままゆっくりと続ける。


「今日は、あの子のために来てくれたの?」

「は、はい。」

「嬉しいわ……ちょっと待っててね。」


そういうと、女性は部屋から消えていった。

僕はあたりを見渡した。

きっと娘思いの両親なのだろう、壁際には家族写真が何枚も飾ってある。



―――佐藤。

―――お前、愛されてるじゃねぇかよ。

壁に飾られている写真を見れば見る程、余計に彼女の心境が分からなくなりそうだ。



数分後、何か分厚い本のようなものを抱えた女性が帰って来た。

「これを、受け取って欲しいの。」

「?」

女性は、僕に分厚い本を渡してきた。それを丁寧に受け取る。




「これは、あの子が記していた日記です。」


「日記…ですか?」




僕は、その分厚い本をパラ、と捲った。その中には、余白を感じない程びっしりな文章が載っている。

そして、その筆跡は明らかに彼女のものだった。

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