8月14日②―――すべては最後の文章に。




「…それ、山本くんに渡したいの。」

「え、いいんですか!?」

「うん。」



僕は、彼女のお母さんを見た。

女性は首を軽く縦に振った。


「7月の末、あの子が私に言ったんです。『これを見ないで欲しい。もし山本、という人が来たら、渡して欲しい。』って。」


そして女性は続けた。


「それと…『すべては最後の文章にある。』とも言っていたの。」


「すべては…最後の文章にある。」



僕は、彼女が言ったと思われるその一言を反芻した。

そして…日記の最後のページを、ゆっくりと開く。

指先が上手く動かせない。ページを捲る手が小刻みに揺れてしまう。

それでも僕は力を込めて、最後のページを開いた。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


君だけが、この本の中身を見ていることを願ってます。

私は、君に知ってもらいたい。

本当の私を。そして、本当の私の心を読み取って欲しい。


ここまでたどり着いた君なら、分かると思う。

…私の友人、従妹、親。

この全ては、何かで繋がっている。





そして、最後に私から君へのメッセージです。

          ・

          ・

          ・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








「・・・!!!」


彼女が書いた最後のページを読み、僕は文字通り「絶句」した。



こんなことが起こっていいのか?



頭の中が、彼女が記した文章で埋め尽くされた。





「…何か、書かれていた?」


彼女の母親は、僕を心配そうな目で見てきた。

きっと中身が気になるのだろう。

僕は、静かに日記帳を閉じた。


「…佐藤から、僕に対するメッセージでした。」


「そう…」


女性は一度俯いた…が、すぐに優しい表情で僕に言った。


「中身は気になるけれど、これはあの子が山本くんに渡したものです。特に中身は言わなくて大丈夫だよ。」

「…!」

「その代わりに、1つだけお願いしたい………あの子を忘れないであげて。」



僕は、女性から目が離せなかった。

…忘れるもんか。

こんなに人を振り回して、使って、わがままの塊みたいな彼女なんだ。




絶対に、忘れない。




「…分かりました。」


僕は、女性に深く頭を下げた。


「忘れません、ずっと。」




そして僕は日記帳を手に、彼女の家を出た。








なぁ、佐藤。




僕は、君に振り回されてばっかりだ。




あと何をすれば、僕は「本当の君」に会える?




「………やってくれたな、佐藤。」


僕は薄く笑みを浮かべた。


手には、彼女の書いた日記帳がある。


さぁ、あともう少しだ。




僕は、彼女の手帳を鞄の中に入れた。

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