8月11日―――電話番号


謎の電話番号を見つけた昨日から1日経った。


僕は相変わらず、その小さい紙切れに掛かれた電話番号とにらめっこをしている。




昨晩、彼女が残したその番号に、電話を掛けてみようと思った。

それでも、誰が出るか分からない電話番号を前に掛けることを躊躇し、明日の昼間に掛けようと思ったのも事実だ。

―――僕が持つ、極度の人見知りが発動している。


一応、電話をすぐ掛けられるようにアドレス登録をする所までは進んだ。

アドレスの名前欄は【佐藤の不思議な番号】という名前で登録している。

…なぜか小説の題名みたいになってしまった。




今は昼間で、掛けても大丈夫な時間帯だ。


僕は電話番号を見た。


今掛けてみないと、物事は進展しない―――そんな気がする。




「よっしゃ。掛けるか。」


僕は【佐藤の不思議な番号】をタップし、【通話する】をタップした。


「めっちゃ緊張する…」


紙に書かれた番号と合致しているかどうかを確認し、僕はスマホを右耳にあてた。

正直、誰か分からない番号に掛けるのは人生で初めてだった。

そのせいもあって、「プルルルル」という淡々とした音が続いているだけでも緊張してしまう。


僕は4コール程待った。




ガチャッ




『はい…もしもし。』

「も、もしもし。」


電話口から、どこか弱弱しい声が聞こえた。

聞いたことのない、女の人の声だった。

向こうも僕の存在を知らないのか、どこか疑うような声で僕に尋ねてきた。



『あの…どちら様でしょうか。』


「こんにちは。あの、突然すみません…僕は、佐藤さんの友人の山本と申します。」


『あ…あの子の……!』



知らない相手ということもあり、僕はできる限り苗字を使って話した。

それでも電話の相手は、彼女の名前に反応していた。

女性は深呼吸をした後、ポツポツと小雨が降るような声で、静かに話し始めた。




『こんにちは。申し遅れました…私は、町田と申します。佐藤とは幼少期からの友人です。』


僕は驚いたと同時に、安堵した。全くの知らない人ではなく、何らかの繋がりのある人に掛かってよかった。



『山本さんが電話を掛けてくることは、佐藤から聞いていました。』

「えっ、知っていたんですか?」



女性は『はい。』と静かに言った。

『彼女が亡くなる数日程前に、彼女に呼び出されて会ったんです。』



聞けば、その女性は僕や佐藤とは少し離れた隣の市に住んでいて、幼稚園・小学校が佐藤と同じだったらしい。中学からは町田さんの方が転校してしまい離れ離れだったが、久しぶりに連絡が来て会ったらしい。




―――きっと今月のどこかで、非通知の電話番号から電話が掛かってくると思う。もし相手の人が山本って名乗っていたら、伝えて欲しいことがあるの。




佐藤は、町田さんにそう伝えたらしい。


「…そんな出来事が。」

『友人は、私にとある住所を教えてくれました。そこは、私も知らない場所です。』

女性はすぐに続けた。『今から住所を教えます。メモ用紙などはありますか…?』


「あ、あります。」

僕は、たまたま机の上にあった〈進路希望調査〉の紙の端をちぎった。

…ごめん、担任の先生。今は自分の進路よりも、この一種の謎解きに集中したい。





僕は彼女に言われるがまま、メモを取った。




【○○県△□市××・・・】




そこは、自分の住む場所からはそんなに遠くはないものの、知らない場所だった。

『山本さんへの伝言だったのですが…私も一度気になって、その場所へ行ってみたことがあるんです。』

女性は小声で『すみません。』と付け加えて続けた。

『その場所には大きな家があります。レンガ調の壁なのですぐに分かります。』

「家の主と話は?」

『いえ。私は見に行っただけなので、なんとも…』



女性はそこまで僕に情報を教えてくれた後、『あの…』と言いずらそうに尋ねた。

「山本さんと、私の友人とは何か関係があるのでしょうか?」

「あ、あぁ…えっと」



僕は、今までのことを丁寧に話した。彼女とは高校のクラスメイトだったこと。彼女から手紙を渡されたことや、そこに電話番号が書かれていたこと。そして今、電話を掛けてみようと思ったことも。


そうすると、女性は心なしか安心したみたいで、電話口から『あぁよかった』と落ち着いたように言った。

『山本さん。佐藤は、私が唯一心を許せる友人だったんです…お願いです。友人の本当の気持ちを、見つけて下さい。』


それは、女性の心からの本音のように感じた。



「はい。」



僕は、首を縦に振りながら答えた。









女性との電話を切った僕は、住所を書いた紙を見つめた。




―――「本当の彼女」に、少しずつ近づいている気がする。




「本当の彼女探し」の旅は、まだまだ続きそうだな。

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