第2話:婚約破棄
「ああ、マチルダ嬢はちょっと気分が悪くなったようだ。
君は妹なのかい、それは丁度よかったと言いたいが……」
サーニン皇太子は一瞬でマチルダとオリアンナの表情を読んだ。
人間の欲望が渦巻き魑魅魍魎のような王侯貴族が争うのが社交界だ。
大陸一の歴史と文化を誇るルーサン皇国だからこそ、その裏は穢れに満ちている。
その汚濁塗れの社交界で、皇帝を傀儡にしようと謀る有力貴族を操れなければ、皇室の権力も自分の命も護れないのが皇太子なのだ。
どれほど表情を取り繕い挙措を偽って恭しく近づこうとも、サーニン皇太子の内心を見抜く眼力から逃れる事などできない。
善良で気弱なマチルダを邪悪なオリアンナが圧迫している事を。
オリアンナが自分を誘惑しようとしている事を。
サーニン皇太子は一目で見抜いていた。
「妹である君にはマチルダ嬢の不在を補ってもらわなければいけないだろう。
失礼だが今宵の主役であるマチルダ嬢の名前は存じているのだが、貴女の名前を知らないのだよ、よければ名前を教えてくれないかな」
そう言いながらサーニン皇太子は誰にも分からないほど自然にサインを出した。
護衛の騎士達だけにしか分からないサインだった。
サーニン皇太子には一騎当千の守護騎士が護衛についている。
守護騎士はルーサン皇国の貴族士族からだけ選ばれるのではない。
身分に関係なくルーサン皇国で最強と言える戦士達が選ばれ、一代男爵の地位を与えられ、このような場でも護衛ができるようにされている。
その中には女性の戦士もいる。
その女性戦士、いや、今では女男爵がそっとマチルダ嬢を連れ出そうとした。
「わたくしはファルド公爵家の次女オリアンナと申します。
マチルダ御姉様の双子の妹ですの」
オリアンナは内心自信満々に、でも表面上は男心を引くようにおしとやかに話して、サーニン皇太子が興味を持つように誘導しようとした。
マチルダとオリアンナは双子なのに体格も髪色も瞳の色までも全く違う。
誰だって不思議に思い質問したくなる。
しかも地味でオドオドした言動の姉に比べて、妹の方が堂々としていて光り輝くように美しいのだから、ひときわオリアンナが目立ち注目され魅力が引き立てられる。
だがそんなオリアンナの気持ちなどサーニン皇太子には一目瞭然だった。
だから喜びそうな美辞麗句を並べて適当にあしらう心算だった。
マチルダが虐められないように時間を潰そうと考えていた。
だがこの情景を嫉妬に狂った目で見ている者がいた。
「ここにお集りの方々にどうしても聞いてもらわなければいけない事がある。
それは私の婚約者となるはずだったマチルダの裏切りだ。
事もあろうにマチルダは不義密通をしていたのだ。
王太子の婚約者に成ろうとする者が、不義密通をするなど絶対に許されない。
だからここで私はマチルダとの婚約を破棄すると宣言する。
そしてマチルダを追放刑に処すと方々の前で宣言する」
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