第27話:凶報
「マチルダ嬢、気を確かに持って聞いて欲しい。
とても悪い知らせが届いてしまった。
もし体調が悪いのなら後日伝えたい。
どうだ、聞く事ができるかい」
覚悟を決めて暗殺を命じたサーニン皇太子だったが、マチルダ嬢を前にしてモーラが死んだことを伝えるかどうか迷ってしまった。
殺すのはかまわない、いや、これ以上マチルダ嬢に危害を加えさせない為には、できるだけ早く殺さなければいけなかった。
だがそれをマチルダ嬢に伝えて心を傷つけるのを恐れてしまった。
「大丈夫です、皇太子殿下。
もう大体の事は想像できています。
父上と母上の安否ですね。
この前お話を聞いた時からある程度の覚悟はしていました」
マチルダ嬢は以外と落ち着いていた。
内心はともかく表面上は落ち着いていた。
だが皇太子にはマチルダ嬢の本心が伝わっていた。
魑魅魍魎が蠢く皇国の社交界で生きてきた皇太子には、人の心を読む力が備わっており、マチルダ嬢の哀しみが手に取るように分かってしまった。
こうなる事は予測できた事だった。
予測した上で覚悟をして皇太子は暗殺を命じた。
なのにもかかわらず予測していた時以上に激しい心の痛みを皇太子は感じていた。
皇太子はまだこんな痛みを感じられる自分に驚いていた。
もう自分は心が摩耗していると思っていたから。
だが自分にもマチルダ嬢に関する事だけは純情な気持ちが残っていると分かり、不思議な喜びが湧きあがっていた。
「そうか、分かった、だったら言わせてもらおう。
とても残念なことなのだが、モーラ夫人が殺された。
やったのは山賊のようだ。
不幸中の幸いと言っては不謹慎なのだが、ファルド公爵は無事だった。
モーラ夫人は運悪く流れ矢に当たってしまったそうだ」
「そうなのですか、父上は御無事でしたか。
母上は可愛そうですが、父上が御無事ならファルド公爵は大丈夫です。
ただこれが私の所為で起こった事なら、母上には申し訳ないことをしました。
皇太子殿下、その辺はどうなのですか。
本当に山賊の仕業なのでしょうか。
私が皇太子殿下の告白を受け入れた影響なのでしょうか」
マチルダ嬢はバカでも薄情者でも卑怯者でもなかった。
謀略の可能性が分からないようなバカではないし、分かっていて心を痛めない薄情者でもなければ、分からないフリをして罪悪感から逃れる卑怯者でもなかった。
皇太子は自分の汚さを自覚しつつ嘘をついた。
「そうだね、その可能性が全くないわけではない。
マチルダ嬢に私との婚約を辞退させるために、警告としてモーラ夫人を殺した可能性もあれば、マチルダ嬢の力を削ぐためにファルド公爵を狙った可能性もある。
その辺をちゃんと調べて対策を立てるよ」
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