第44話:それぞれの決断
「皇太子殿下、こちらに」
最側近達が目の見えなくなった皇太子を安全な場所に逃がそうとする。
桁外れの騎士であろうと急に失明してしまってはどうしようもない。
生れた時からの視覚障害者なら長年かけてそれなりの戦い方ができる。
時間があれは気配を感じて戦う術を覚えられたかもしれない。
だが今の皇太子にそんな事は不可能だった。
側近に勧められるまま逃げる以外に何の方法もない。
「マチルダ様、私の唱える詠唱と結印を覚えてください」
マチルダ嬢に呪術を教える役目の呪術侍女が小声で話しかける。
皇太子宮で奉公する侍女の大半が皇太子に救われた者達だ。
だから全てを捨ててでも恩返ししたいと思っている者が多い。
だが以前ケインが口にしたように、助けようとしても逆に皇太子の害になる。
後々の人のために、皇太子殿下が自傷行為をして今の状態よりも悪い状態にしてしまうかもしれないと思うと、何もできなくなってしまっていた。
だが今この状態ではそんな事も言っていられない。
上級魔族が襲い掛かって来ている状況では皇太子殿下の命が最優先だった。
一騎当千の守護騎士達でも防戦一方で皇太子に逃げてもらうような状況だ。
皇太子殿下が視力を失った状況では逃げることもままならない。
とにかく今は視力を回復させて逃げ延びてもらわなければいけない。
呪術侍女はそう覚悟を決めたのだ。
「貴女の決意は分かりました。
私では限られた攻撃や防御の呪術しか使えません。
皇太子殿下の視力は私が回復させます。
貴女は守護騎士の支援をお願いします」
「ギャアアアアア」
上級魔族を召喚憑依させられたオリアンナが、あの美しかった容姿のまま返り血で真っ赤に染まった姿で襲い掛かってきた。
皇太子守護騎士や選びぬかれた歴戦の護衛騎士を切り裂いて近づいてくる。
支援役の魔術師や呪術師がいなければ即死していただろうほどの重症だ。
最後まで皇太子を側で護るべき守護騎士ももうオルガしかいない。
ラルフなどの守護騎士は修道院に攻め込んでいた。
多くの反対を押し切って皇太子が決めた事だった。
「ラルフ達が敵に突破されなければ何も問題などない」と皇太子に言い切られては、できませんとは言えないのが騎士や戦士の矜持だった。
「オルガと戦闘侍女、魔術侍女や呪術侍女いる」と言われれば、側近達もそれ以上の反対を言いだし難かったのだ。
「私達が時間を稼ぎます。
オルガ殿は殿下を護って馬車で逃げてください」
最後の最後まで皇太子を護っていた侍女達が前に出た。
命を賭けて皇太子の盾になる心算なのだ。
彼女達も並の騎士を凌駕するほどの戦士ではある。
だが守護騎士すら簡単に引き裂く上級魔族と戦って生き延びられるわけがない。
マチルダ嬢は決断した。
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