第5話:斬撃
オリアンナは直ぐにロバート王太子を止めようとした。
サーニン皇太子が誘惑できるかどうかわからない今は、ロバート王太子は王妃になるための大切な駒だった。
サーニン皇太子に評価されるような言動で、姉のマチルダを庇いつつロバート王太子が自滅しないようにする。
「おま……」
オリアンナはあまりの恐怖に身体が凍り付いてしまった。
サーニン皇太子がとてつもない殺気を放ちつつ睨むのだ。
それこそ蛇に睨まれた蛙状態だった。
サーニン皇太子は自分を斬らせるつもりでいた。
ロバート王太子の護衛騎士に斬らせて、フランドル王国に言い訳のしようのない失態を犯させようとしていた。
「危ない、オリアンナ嬢」
ロバート王太子の護衛騎士オリバーは、フランドル王国では上位十騎に数えられるほどの凄腕である。
ロバート王太子の命令で既に色々な悪行も行っている。
だから悪事に慣れてしまっているのだ。
オリアンナが何か言いかけて固まったのを、他国の密偵に脅迫されたのだという事にして、この場で密偵を斬り捨てようとした。
「駄目、危ない」
ここで誰も想像していなかった事が起こってしまった。
マチルダ嬢が信じられないほどの素早さでサーニン皇太子を庇おうとしたのだ。
ロバート王太子の邪悪で自分勝手な性格を知ってるマチルダは、ロバート王太子がサーニン皇太子を殺させると瞬時に悟り、身代わりになろうとしたのだ。
この想定外の行動に全員の計算が狂ってしまった。
まずサーニン皇太子は、会場中の王侯貴族の前で服だけ斬らせる心算だった。
サーニン皇太子付き男性守護騎士のラルフは、サーニン皇太子に斬りかかったオリバーを取り押さえて、自殺を防ぎつつ実行犯を確保する心算だった。
サーニン皇太子付き女性守護騎士のオルガは、他の騎士や王侯貴族が介入しないように周囲を警戒しつつ、サーニン皇太子に不測の事態が起きないようにしていた。
だがそのために、会場から連れ出そうとしていたマチルダへの注意が、完全にそれてしまっていた。
サーニン皇太子は、自分の身代わりになろうと飛び出してきたマチルダの目の美しさ、いや、心の美しさに心を奪われてしまった。
忠義でも打算でもなく無償の愛で誰かを助けようとする優しい心。
ずっと虐められ続けたであろうに、心が捻じ曲がることなく、純粋な優しさを持ち続けられる芯の強さ、いや、真の強さに心を奪われた。
だからこそ何としてでもマチルダを助けると決意した。
自分の身代わりになって死なせるわけにはいかないと心から思った。
最初の予定通り自分の服だけ斬らせるにはマチルダの位置が悪い。
本気で動いてラルフをぶちのめしてしまったら、フランドル王国を追い込むネタとしては弱くなってしまう。
だから服だけでなく身体を斬らせる覚悟をした。
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