第23話:呪術

「それで、偵察隊の頭が大使を刺殺して、大使の私兵と戦闘になったのか」


 サーニン皇太子が報告を終えた密偵に確認した。


「はい、頭は何度も修羅場をくぐった事にある現役の戦士です。

 賄賂で大使の役目を買ったモノの私兵などに後れを取る者ではありません。

 大使館の人間を皆殺しにして逐電いたしました」


 皇太子は心の中でだけ大きくため息をついた。

 皇国を蝕む獅子身中の虫の所為で、現場で一生懸命働いている家臣が皇国を捨てて逃げ出してしまったのだ、ため息くらいつきたくなって当然だった。


「その者と接触して匿う事はできるか」


「残念ながらそれは止めた方がいいと思われます」


 普段ほとんど皇太子の命に逆らわない密偵の否定に皇太子は異常を感じた。


「理由はなんだ」


「どれほどの悲惨な境遇にあろうと、耐え忍んで情報を集めるのが偵察役です。

 その頭ともあろう者が、はじめから分かっているはずの大使の愚かさに激怒し、しかも大使を殺すなど異常過ぎます。

 何者かに操られていた可能性が高いです。

 そのような者を裏とはいえ配下に加えるのは危険過ぎます」


 皇太子は密偵の言う事に心から納得した。


「なるほど、確かにその方に言う通りだ。

 あまりにも異常過ぎるな。

 では接触して情報を得るのはどうだ、それも危険か」


「危険ではございますが、情報は集めなければいけません。

 直接情報を集めるとともに、周りからも確認の為の情報を得なければいけません。

 ただし皇太子殿下との接点はできるだけ遠くしておく方がいいと思われます。

 間に多くの者を挟んで傭兵ギルドや冒険者ギルドに依頼する方がいいでしょう」


 普段から慎重な密偵がいつも以上に慎重だった。


「分かった、信頼できるギルドに依頼を出してくれ。

 それで何が起きたと思う」


「あくまでも予想にすぎませんが、多くの若く美しい女性が失踪している事。

 マチルダ様が呪殺されかけた事。

 両方から考えて、呪術で操られていたモノと予想いたします。

 ただし、あくまでも予想です。

 呪術だと決めつけるのは危険でございます」


 密偵の言う事は皇太子の考えと一致していた。


「そうか、確かに決めつけるのは危険だな。

 だが私も呪術の可能性が高いと思う。

 決めつける訳ではないが、二度目の呪殺には気をつけなければならぬ。

 呪殺師達は自分達の名誉にかけて私やマチルダ嬢を護ると断言している。

 万全の態勢で迎え討ち、呪術返しを行うと言っている。

 表向きは彼らの言葉を受け入れたが、本心は違う。

 僅かであろうと危険を見過ごす気はない。

 マチルダ嬢がまた苦しむなど絶対に許せん。

 どのような手段を使っても構わん、呪術を発動させないようにしろ。

 証拠や証人、確証など不要だ。

 少しでも疑わしいモノは皆殺しにして呪術が行われないようにしろ。

 できるか」

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