第22話:失踪
フランドル王国の王都に多くの偵察が入り込んでいた。
サーニン皇太子直属の密偵だけでなく、各国の偵察が入っていた。
ルーサン皇国には多くの派閥があり、内部で権力闘争をしているのは間違いない。
だが内部の権力闘争は別にして、皇国の面目は保たなければいけない。
皇太子が顔を斬られて何も報復しないのでは皇国の面目は丸潰れだ。
ロバート王太子と側近達は処刑された事になっている。
上は公爵家から下は王家直属の騎士家まで、全ての貴族家と多くの士族家が皇国に忠誠を誓いフランドル王国から離脱していた。
ディグビー王家などの縁戚からの嘆願もあった。
だから滅亡同然のフランドル王家はわずかな領地と共に存続を許された。
許されはしたが、ロバート王太子の遺体は影武者で密かに生かされているという噂があり、もしそれが本当ならが皇国が愚弄されたことになる。
徹底的に事の真相を調べなければいけない状態だった。
そんな状態なのに、事件の当事者の一人であるマチルダ嬢が呪殺されかけたのだ。
皇国が国の面目にかけて真実を調べるのは当然だったし、とばっちりを恐れるフランドル王家の縁戚が密偵を送るのも当然だった。
「大使閣下、やはりおかしいです。
犯罪者ギルドがやったにしては痕跡がなさ過ぎます。
いえ、犯罪者ギルドも皇国を恐れて積極的に協力しました。
それでも犯人が分からないなんて明らかに異常事態です。
我らと犯罪所ギルドが総力をあげて調べても分からないなど普通ではありません」
皇国が派遣した偵察隊の頭が、フランドル王国に派遣されている大使に現状を報告しているが、頭はとても焦っていた。
沈着冷静に探索しなければいけない偵察隊の頭が、いや、時には冷酷な命令すら下してきた頭が、何時になく焦って平静さを欠いていた。
「おちつけ、探索のプロであるお前が冷静さを欠いてどうする。
そんな事では原因究明などできんぞ」
事の重大さに気がついていない大使が頭をなだめようとした。
こんな所に権力闘争の弊害があった。
重要な国に派遣されている大使が、能力ではなく派閥の力学で選ばれてしまっていて、現場の苦労も切迫感も危機感も理解していなかった。
現状にあわない上っ面だけの常識論を口にしていた。
「大使閣下は現状を全く理解されていません。
事の真相を確かめようとした裏社会のプロが理由もなく失踪しているのです。
私の配下ももう幾人もいなくなっているのです。
私もいつ消されるか分からないのですよ。
大使閣下も少しは真剣に動いてください。
このままでは侯爵閣下の立場まで悪くなってしまいますぞ」
頭は大使の危機感のなさに怒りを抑えきれなくなってしまった。
派閥による弊害が我慢できなくなってしまった。
大使の怠惰を指摘して、派閥の領袖に迷惑をかけるぞと脅すような事まで口にしてしまった事で、現場での派閥間闘争を引き起こしてしまった。
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