第13話:宣戦布告
サーニン皇太子はとても苛立っていた。
これほど皇太子が露骨に怒りを表情に出すのは珍しい事だった。
それだけに側近達はハラハラしていた。
取り返しのつかない破局が訪れるのではないかと恐れていた。
「そんな招待は受けられないと伝えてもらおう。
私の同席しない茶会にマチルダ嬢を参加させる気はない。
どうしてもマチルダ嬢の顔が見たいというのなら、王太子宮に来てくださればいいと皇后陛下に伝えてもらおう」
サーニン皇太子は毅然とした態度で母である皇后の誘いを断った。
いや、誘いというよりは罠だと言っていいだろう。
皇后の勢力圏である後宮に入ったりしたら、間違いなくマチルダ嬢は殺される。
そんな事くらいサーニン皇太子にはお見通しだった。
「本当にそんな返事をお伝えしていいのですか。
皇后殿下は皇太子殿下の後見人でもあるのですよ。
皇后殿下と敵対してしまうと後ろ盾を失ってしまいますよ。
最悪廃嫡もありえるのですよ。
それでもいいのですか、サーニン皇太子」
マーリア皇后の使者は虎の威を借る狐だった。
常に皇后の名を使って周囲を威圧して私利私欲を貪っていた。
だがそんな連中がサーニン皇太子は大嫌いだった。
それこそ全身に虫唾が走り吐き気を催すほど大嫌いだった。
今までは皇城を出て軍事や外交に専念する事で接点を無くしていた。
だがマチルダ嬢に惚れた事で、積極的に皇国の膿を出す覚悟を固めていた。
「構わんよ、廃嫡上等だ。
だが私がただで負けると思っているのではないだろうな。
私の事を慕ってくれる将軍や団長は数多くいるのだぞ。
母上に取り入って皇国を蝕む害虫共の好きにさせたりはせんぞ。
例え私が死ぬことになろうとも、弟達のために害虫を皆殺しにする。
その覚悟がお前ら腐れ外道にあるのかな」
サーニン皇太子が殺意の籠った本気の視線を使者に向けた。
若すぎるほど若い時、いや幼い頃から実戦を生き延びてきた皇太子の眼力だ。
皇后の傘の下で好き放題していた姑息な悪党に耐えられるようなモノではない。
恐怖のあまり皇太子宮のソファーを小水で汚してしまうという、取り返しのつかない大失態を犯してしまった。
「無礼者、皇太子殿下の御前で何たる粗相を犯すか。
死を持って償え」
サーニン皇太子付き守護騎士のラルフがそう言うなり剣を一閃させた。
しばらくは何もなかったのだが、少しして使者の首がコトリと床に落ちた。
斬られた首から血が噴き出して部屋中を真っ赤に染めた。
その時にはサーニン皇太子や皇太子付きの侍従や侍女は、血が飛び散る範囲からいなくなっていた。
鮮血を受けて真っ赤になっているのは、副使と使者の付き人だけだった。
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