第33話:遠征軍準備
「皇帝陛下、邪神教徒がフランドル王国を乗っ取っています。
このままではどのような災厄が大陸に引き起こされるか分かりません。
歴史ある皇国がそれを見過ごすわけにはいきません。
どうぞ遠征軍を派遣してください。
私にその指揮をお任せください」
「分かった、皇国の皇太子として軍を率いて邪神教徒を討伐せよ」
サーザ皇帝は決断した。
動くべき時が来たのだと決断した。
まだ皇室を蝕む有力貴族を取り除けたわけではない
皇帝が皇国が完全に掌握しているわけではない。
本当はもっと時間をかけて皇国内部を固めたかった。
だがそれでは邪神教徒に後れを取ってしまうかもしれない。
内敵排除と内部統制、外敵討伐を同時にしなければいけないと覚悟したのだ。
「承りました」
サーニン皇太子は父であるサーザ皇帝の決意を汲み取った。
自分の願いを聞き届けてくれた皇帝の為に何としても外敵を斃すと決意した。
内部の敵は皇帝と皇后に任せる事にした。
だがどうしても譲れない点があった。
「マチルダ嬢、身勝手な事を口にしている事は重々承知している。
だがどうしても一緒にいたいのだ。
君のいない所ではもう寸刻も生きていけない。
危険な遠征ではあるが、どうか私と一緒に来て欲しい」
とても大げさな言い方だった。
今でも政務で半日以上会えない事が多かった。
だから寸刻など大げさ過ぎる言い方だった。
だが心情的には一片の嘘もなかった。
わずかな間もマチルダ嬢と離れたくなかった。
「はい、私の命はサーニン皇太子殿下にお預けしています。
どこにでも一緒に行かせていただきます」
マチルダ嬢の返事にサーニン皇太子は歓喜した。
マチルダ嬢に断られたらどうしようかと内心怯えていたのだ。
それが期待以上の答えを貰って喜びに全身が打ち震えていた。
だが危険な真似をさせるつもりなど毛頭なかった。
自分が遠征軍に参加してる間に、マチルダ嬢が襲われる事が不安だったから、自分が直接護る事ができる遠征軍について来てもらいたかったのだ。
実はサーニン皇太子も内心迷っていたのだ。
マチルダ嬢の安全を優先するなら、魔術や呪術からの防御に秀でた三段の結界に護られた、皇都皇城皇太子宮内にいてもらった方がいい。
本来なら自分が遠征に出るのではなく、信頼する騎士団長か将軍に任せればいい。
だが、自分が安全な宮にいて配下にだけ危険を負わせる事ができなかった。
そんな人間になってしまったら、マチルダ嬢に嫌われてしまうかもしれないと不安になっていた。
あれほど勇気に満ちていたサーニン皇太子とは思えない状態だった。
生まれて初めて本当の恋を知ったが故の人格崩壊だった。
何度か同じ経験をすれば図太くなるのかもしれないが、今はダメだった。
恋心に振り回される純真無垢な少年になってしまっていた。
悪党なら平気で殺せるのに、マチルダ嬢にだけは臆病になってしまう。
一緒に来て欲しいと言う時も、実は心臓が破裂しそうなくらい緊張していた。
共に宮で暮らせば暮らすほど、慣れるどころか恋心が膨らんでいた。
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