第17話:以心伝心

 皇太子宮でマチルダ嬢の真意を知ったマーリア皇后は動いた。

 その日のうちに皇后の立場を利用してサーザ皇帝と会っていた。

 男尊女卑な思想が強い大陸では、皇后の地位は皇帝より格段に下だ。

 皇后の権力は皇帝の愛情と信頼があって初めて成り立つ。

 マーリア皇后に権力があるのは、彼女自身の個人的才覚と皇族出身だからだ。


「先程サーニンの宮でお茶をしてきましたわ」


 マーリア皇后は各派閥の密偵を恐れて遠回しに話した。


「ほう、君がサーニンの宮に行くとは珍しいな」


 サーザ皇帝は表情一つ変えずに何の興味のないような調子で答えた。

 あくまでも皇后に合わせて返事をしているだけで自分は興味がないと言う体だ。

 皇帝は傍系皇族の王家から嫁いできた皇后を大切にしていた。

 多くの派閥が皇帝と皇后の関係を政略結婚だと思っている。

 本家にとって代わろうとする反抗的な傍系皇族や、彼らを担いで皇国を乗っ取ろうとする有力貴族と対抗するための、同盟的な結婚だと考えていた。


 確かに皇帝と皇后の関係はそういう点が強い。

 だが決して愛情がないわけではない。

 むしろ平均的な貴族の夫婦よりもずっと愛情が強い。

 ただそれが知られないように表面上は感情を表さないようにしているのだ、

 愛情があると知られて謀略に使われないようにしているのだ。


「ええ、私の所の侍女が直接赴いて謝らなければいけないほどの粗相をしでかしましたので、仕方なく伺いましたの。

 ただお陰でとても面白いモノを見る事ができましたわ。

 皇帝陛下も見に行かれたら面白いモノが見られるかもしれませんわよ」


 皇后が遠回しにマチルダ嬢がいい令嬢だと皇帝に伝えた。

 ただできるのなら直接確かめて欲しいとも伝えた。


「ふむ。皇后がそこまで言うのならよほど面白いモノなのだろう。

 だが朕も色々と多忙でな、何時行けるか分からんしそもそもいけないかもしれん。

 だから皇后に時間があるのなら話を聞かせて欲しいな」


 皇帝は直ぐに直接確かめにはいけないと皇后に伝えた。

 できれば見聞きした事を直接話して欲しいと伝えた。

 同時に内密の話がしたいとも伝えた。

 遠回しに閨で会いたいと言ったのだ。

 

「そうですわね、皇帝陛下と込み入ったお話をするのも久しぶりですわね。

 私の所の侍女がしでかした不始末をどう決着つけるかも話し合う必要があります。

 今宵は時間をかけて皇帝陛下にお願いしなければいけない事がありますね。

 お前達の事を皇帝陛下にお願いしなければいけませんから、今宵はここに残りますから、身の回りの世話をする者以外は宮に帰りなさい」


 皇后は本当に信頼できる者以外は皇后宮に帰した。

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