第8話:結末
「やめてください、サーニン皇太子殿下。
確かにオリアンナはどうしようもない悪女です。
でも、それでも、私の妹には違いありません。
妹が拷問を受けるのを黙ってみているわけにはいきません。
それに、私を助けてくださった殿下に残虐の評判を着せるわけにはいきません。
どうか殿下、誇り高い皇太子らしい態度をお取りください」
マチルダの瞳は宝石のように美しかった。
自分の利害損得など一切考えず、真摯に妹とサーニン皇太子の事を想っていた。
生れてからずっと汚れた人間を見続けてきたサーニン皇太子には眩しかった。
忠誠心と騎士道精神に溢れた存在はいた。
そんな者達に護られ助けられてきた。
だがマチルダはサーニン皇太子の家臣でも何でもないのだ。
「分かりました、マチルダ嬢。
あなたのような心の美しい令嬢には生まれて初めて出会いました。
今この機会を逃してしまったら、もう二度と貴女のような令嬢には出会えない。
だから非礼を承知で今この場で告白させていただきます。
出会ったばかりではありますが、私は貴女に心を奪われました。
もう貴女なしで生きていくことはできません。
どうか私と結婚してください」
マチルダはあまりの事に直ぐに返事ができなかった。
だがサーニン皇太子が嘘や冗談で言っていない事は分かった。
直ぐに返事をしなかったのにもかかわらず、サーニン皇太子はずっと跪いたままで、会場中がこの後どうなるか注目している。
無責任な返事は絶対にできない。
真剣に考えて真摯な心で返事しなければいけない。
「身に余る光栄ではございますが、直ぐに返事はできません。
私のような者がサーニン皇太子殿下に相応しいとは思えないのです。
ただ心からの申し込みに逃げだす事は卑怯だと思います。
殿下に相応しい女性になれるか努力させてください。
その上で本当に殿下に相応しい女性か判断してくださいませんか」
サーニン皇太子はマチルダの真摯な答えに感動していた。
ルーサン皇国皇后の地位に眼が眩むことなく、自分に相応しくなりたいと衆人環視の前で言い切り、相応しい女性に成れなければ告白を撤回してもいいという。
不意に告白した相手に対する、見せかけではない心からの謙虚さと真心。
何があっても絶対にマチルダを手放さないとサーニン皇太子は心に誓った。
「はい、貴女の真摯な心は理解しました。
だったら婚約してください。
誰かに横から攫われるのは我慢できません。
でも、貴女の真剣な返答を無にする事もできません。
何かあれば互いに解消できるという条件で婚約してください」
「はい、婚約させていただきます」
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