第15話:茶会
「ここのお茶は美味しいわね」
マーリア皇后が優雅にお茶を愉しんでいる。
毒殺など全く気にしていないようだ。
むしろ側近達の方がビクビクしている。
それもそうだろう、周囲にはできたばかりの血痕が生々しい。
サーニン皇太子は皇后の使者を斬った部屋で茶会を開いているのだ。
皇后に対する明らかな警告と威圧だった。
いや、皇后に対するというよりは皇后の取り巻きに対する警告だ。
「それは違いますよ母上。
茶葉がいいのではなく雰囲気がいいのですよ。
欲望に穢れた侍女に囲まれて飲むお茶は不味くなるモノですよ」
皇太子がやんわりと皇后に身綺麗にするように警告する。
「あら、そうなの、それは困りましたね。
でも私もまだ死にたくはないのよ。
汚れ穢れた欲得づくの者達でも、私の命を護ってくれているわ。
彼女達を手放してしまったら、明日にでも殺されてしまうわ」
皇后もやんわりと皇太子に言い返す。
皇后の言い分も分からない訳ではない。
権謀術数の渦巻く皇城内では、殺されないために派閥を作るのは仕方がない。
派閥を維持するための資金を得るために多少の悪事も仕方がない。
特に軍事や外交で力や金を得ることができない女性は、生き残るために不正をしててでも派閥維持のための資金を得る必要があった。
「母上に覚悟がおありならば、力を維持するための資金を提供しましょう。
その資金で新たな派閥を作られては如何です」
皇太子も皇后に全く愛情を持っていない訳ではない。
自ら立つ力を得るまでは母親である皇后に護られていたのだ。
不正をした金で力を維持する皇后なしでは生きていけなかったのは、動かし難い事実なのだから。
「魅力的な提案ではあるけれど、断らせていただくわ。
派閥の転換期に狙われて殺されることになっては意味がないのよ。
それよりは同盟を結んだ方がよくなくて、サーニン皇太子。
私は貴男の恋人には手を出さないわ。
派閥の者達にも手出しさせないわ。
その代わり私達が今まで持っていた権限を認める事。
貴男が理想を持って皇国を変えようとしている事は分かっているわ。
でも道半ばで死んでしまっては意味がないのよ。
改革は、ゆっくりと無理せずやるべきモノよ」
皇太子は即答できなかった。
皇太子には物心ついた時からの理想がある。
それを諦める事は、今集まってくれている改革派の仲間を失望させることになる。
最悪の場合は改革派が皇太子から離れてしまうかもしれない。
そんなことになったら皇太子の力が激減してしまいかねないのだ。
それこそ皇太子の方が転換期を狙われて殺されかねない決断なのだ。
今までならば即座に拒否している。
だが、恋したマチルダ嬢の安全を優先するためには受けた方がいいかもしれない。
そんな風に皇太子が考えてしまった時、マチルダ嬢が不意に話しだした。
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