第10話:地下墓所のロバート王太子

 いたい、痛い、顔の傷だけでなく心まで激しく痛む。

 屈辱と怒りが激痛を伴って心の中で暴れ回る。

 全てマチルダとサーニンの所為だ。

 あいつらさえいなければ、オリアンナと愉しく暮らせていたのだ。

 それが今では暗くジメジメした地下墓所で隠れ暮らさなければいけない。

 いつも側にいた側近達も皆殺しにされた。

 私の替え玉を本物に見せるために。


「ロバート、どこにいるのですか、ロバート」


 母上が私を探している。

 日に一度、サーニンの手先に見つからないように食事を届けてくださる。

 手先に見つからないようにするには、ちゃんとした食事は運べない。

 先祖の供物に見せかけて運ぶため限られた物になる。

 温かいスープなど望むべくもない。


「ここです、ここにいます、母上」


「おお、おお、おお、可哀想なロバート。

 お前は何も悪くないのに、こんな所に隠れ暮らさなければいけないなんて。

 痛かったでしょう、私が必ず治してあげますからね。

 今しばらく待つのですよ」


 母上が潰された私の顔に優しく撫でさすってくださる。

 万が一サーニンの手先に見つかった時のために、顔を潰していいる。

 魔術で痛みを感じなくしたとはいっても、顔を潰される時の異様な感じは忘れん。

 必ずサーニンにも同じ思いをさせてやる。

 いや、魔術で普通よりも激しく痛みを感じるようにして顔を潰してやる。

 絶対に、必ず、顔を潰してやる。


「はい、待っています。

 母上が復讐の方法を探し出してくださるのを待っています」


「王に少しでも勇気があれば、ロバートがこんな思いをしなくてもよかったのに。

 ロバートを庇って戦うのが父親でしょうに。

 全ての貴族が裏切ったというのに、討伐もしないなんて、情けなさ過ぎます。

 大切な息子の顔を潰して自分の命を惜しむなんて、なんて臆病なのでしょう。

 本当はこの手で殺したいところなのですが、そんな事をすれば王族の誰かが王位を継いでしまいます。

 そんな事になれば、貴男がここにいる事が露見してしまうかもしれません。

 こうしてここに来る事もできなくなってしまいます。

 ですからいましばらく待ってくださいね。

 私が力を手に入れたら必ず王を殺してここから出してあげますからね」


「はい、その日を一日千秋の想いで待っております。

 ただここに一人でいるのはあまりにも寂し過ぎます。

 話し相手になる者を連れて来てくれませんか。

 できれば、その、美し女がいいのですが」


「そうですね、ロバートもこんな所に一人では寂し過ぎますね。

 ですが王宮の侍女がいなくなると問題になってしまいます。

 城下の娘なら多少いなくなっても大丈夫でしょう。

 少し待ちなさい、貴男のオモチャを集めてきます」

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