少し冷めた二つのマグカップ

厚い鉛色の雲に空が覆われ、今にも雨が降り出しそうな様子が窓から見えた。

お世辞にも気分がいい日とは言えない、そんな日の昼下がりのこと。


コポコポとポットが音を立て、頃合いだと自己主張をしてくる。

「はあ」という、大げさなため息が聞こえる。

苛立ちながらPCを閉じ、大きく背伸びをしてそのまま突っ伏している彼女の側にマグカップに入った珈琲を置く。

そのまま声を掛けずに、放置していると、ずんぐと起き上がる。

「ちょっと。」

「珈琲は熱いうちにどうぞ。」

「そうじゃねえんだ。」

「今日はお茶菓子は無しでいこうと思ったけど、クッキーならあるよ。」

「そうでもねえんだ。」

ガオーという効果音があったら今ほどふさわしいときもないだろう、という様子の一人でフラストレーションを抱えている彼女にクッキーを手渡してやる。

「ありがとう…」

がっくりと、クッキーを口に放りこむ彼女の側に腰を掛け珈琲を啜る。

「で、どうしたのさ。」

「…もう話さん。」

「そう。」

マグカップを机に置く。

彼女の側に身体を近付ける。

「な、なんだよ?」

距離を取ろうとする彼女を抱き締める。

「わ、危ないだろ、珈琲持ってんだぞ」

「だって離さないんだろ?だったら僕が君を離さなければいいんじゃないかって。」

「そっちの離さないじゃねえんだ。」

「なあんだ。」

腕を外し距離を取る。珈琲に手を伸ばす。

「どこに誤解する余地があったよ…」

まんざらでもない様子で少し冷めた液体を啜る様子にほっとして、僕も珈琲に手を伸ばすことにする。

「さあてね。あ、雨が降り始めたね。」

外を見るとぽつぽつと春先の優しい雨が降っていた。

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