来訪

「塔の上には魔女が居る」

ある朝、塔が出来てから、そんな噂が村で囁かれるようになった。

噂を辿って遠い異国から、旅人が村を訪れることも多くなった。


「ねえ」

暗い顔をした女が立っていた。ここいらでは珍しい褐色の肌と赤い髪。長いであろう髪を後ろで粗雑に纏めていた。

「いらっしゃい。」

「あの塔に入りたいんだけど、入り方ってご存知?」

「村の人間は塔に入ろうとはしませんね。」

「なんで?」

「魔女の住居に入ったものは生きて出てこれない。そういう噂がありますから。」

「ハッ、噂でしょうよ。魔女が居るかどうかも分からないのに。」

そう言うと女はつまらそうな顔をして銅貨を取り出した。

「冷たい炭酸水。瓶入りの。」

「まいど。」

栓抜きで金蓋を外し、手渡してやる。

「村は観光業で儲かってるって話。存外、塔の噂なんてデタラメでアンタたちが人寄せに、作ったのかもしれないわね。」

「一夜で作るにはこの村には資金も男手も足りませんね。ここは貧しい村です。」

「まあ、いいわ。」

「これからどうするおつもりで?」

「塔の周りで野宿してみる。」

「そうですか。ご入用の物があればまたなんなりと。」

「そうね、考えておくわ。」

そういって乱暴に立ち上がり不機嫌そうに荷物を担ぐ。

「夜は冷えます。獣も出ます。お気をつけて。」

「どうも。」


それだけ言い残して、女は出ていった。





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