愛しみ
ざっ…
ざっ…
雲一つない夜空に、真っ白な月が出ている。
男は一心不乱にスコップを突き立てていた。
ざっ…
ざっ…
時折、零れた土片が顔に当たり、鬱陶しそうに腕でそれをぬぐいながらも決して手を止める様子はなく、むしろ益々その情熱を燃やすかのごとくその手を動かすのであった。
がつん、と聞きなれない音が夜辺に突然響き渡る。
男は、はっとした表情でその手を止め、自分の手元をじいーっと目を凝らし、スコップの先でもっとよく見ようと土をかき分けようとするのであった。
そうして耳まで裂けたかのような薄気味悪い喜色な表情を浮かべると、その周囲の土塊を取り除き、それを取り出すのであった。
それは石櫃のようなものであった。
随分と重そうな、大の男一人でも動かすことが出来なさそうな外蓋を、男はやすやすと持ち上げて見せるのであった。
すると、その中から随分と風化した白骨が現れた。
それは人間の物の様にも見えるし、そうでない物のようにも見える。しかし確かに何かの骨であった。
男は愛おしそうにそれを手に取り、頬擦りをした。
「あぁ…嗚呼…」
嗚咽とも慟哭とも分からない男の声。
深々とした夜の帳の中で、いつまでもいつまでもその音が響いていた。
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